文月の毒
Scene.039
文月の毒
「気味の悪い風が吹いてる」
玄関のドアを開け、彼女は深く息を吸った。
「気をつけてね」
カラン、と風鈴が鳴る。風は、真夏と冷房の境界線。身体を包む熱の鎧を引き剥がすように、体温を奪い去ってゆく。
ざわざわと揺れる森の音は遠く。ざあざあと蠢く波の音に、虫たちの歌が重なる。どこか頼りないその声は、セイレーンの歌声を思わせた。
空虚な空にぱたぱたと足音が響いた。海沿いの街へと続く下り坂。煌々と儚い街灯が、ぽたぽたと染み込んでいる。
「また知らない子のこと家族って言った」
光の流れない暗がりで誰かが笑っている。真っ白な躯に、闇色の髪が纏わりついていた。寒気がして、目を反らす。
誰もいない下り坂が僕を呑み込もうとしていた。
これにて、了。
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