Scene.032

 羽


 虹色の夢。そう、オレンジや白や黄や瑠璃色の、南国の色彩が縦横無尽に飛び交うイメージ。その極彩色の中で、少女は戯れる。二枚の翅を追いかけ回して遊ぶ。健やかに笑って。しかし、突然、銀色の刃が彼女を真っ二つに両断して——

 灰色の天井が見えた。

 酷い頭痛がしている。まるで、割れる様な、痛み。

 深呼吸する。

 吐き出した息が、ひらひらと宙を舞った。真っ赤な翅の、小さな蝶。黒い縁の模様があって、美しくて……。さっきの鮮やかな蝶の群れが、集まって来る。二枚の翅で、ゆらゆらと飛びながら。幾つもの物語が……。

「この血でその罪も購われたな」

 斧を手に、執行人はそう呟いた。

 首だけの女は、意識が飛ぶまでの瞬きの中で、南国の夢を見ていた。銀色の斧から糸を引く、とろける様な甘い蜜を、執行人は陶然と見つめている。


 これにて、了。

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