第166話 事件資料
部屋内には、ひとりの中年の男がいた。
「これはこれは、こんな辺境の町にいらっしゃるなんて、どうされましたか。剣帝殿」
「この町で起きた1年間の事件の資料をすべて見せてほしい」
「突然ですな」
中年の男――グレデラ・デルクライル子爵は顎髭を触りながら唸る。
出し渋る姿がエリに不信感を抱かせる。
「何か問題でも?」
「いえ、すぐに用意させますが、1年分ですと……少々時間をいただけないでしょうか」
エリは眼を細くする。
時間を与えれば、何か細工をされかねない。
「そんなに待つつもりはない。時間がかかるなら、私の兵も手伝わせよう」
数瞬の沈黙が流れるが――
「わかりました。では、こちらの屋敷にお呼びください。整理ができ次第、手伝っていただいた方にお渡しすればよろしいでしょうか」
「それで構わない」
話し終えるとエリは部屋を出た。
侍女の案内で屋敷を出ると門前でスレイカが待っていた。
砦から出るときにある程度の行動については伝えてあったからだろう。
優秀な副官だ。
「どうでしたか?」
「1年分の事件の資料は用意してもらえるけど、時間がかかるみたい。だから、こちら側から手伝いを出すことにした。誰か用意して」
「承知しました。時間をかけると何か細工をされかねないので私が行きます」
「じゃあ、お願い」
自分の右腕が対応してくれるなら、心配いらないだろうと判断した。
エリが門番に説明し、侍女がスレイカを案内してくれることになった。
「では、私は行きます。あ、一応、宿泊場所はこちらですのでご確認ください」
スレイカから宿泊場所の書かれた羊皮紙を受け取った。
スレイカはその後、デルクライル子爵の屋敷に入っていった。
「これで何か見つかればいいのだが……」
この町でスレイカの視た飲み物が何なのかわかれば、わざわざ帝都まで行く必要は無くなる。
あとは首謀者を捕まえるだけ。
エリはデルクライル子爵家の屋敷からの報告書に期待するのであった。
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