第133話 森の声

 森への入り口はすぐだった。


 生い茂る雑木林。


 森の中からは、獣の声や鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 琉海とエアリスは、雑木林の中に足を踏み入れた。


 エアリスはこの森の中が居心地いいのか、足取り軽く進んで行く。


「エアリス、何が起きるかわからないんだ。気を付けろよ」


「大丈夫よ。ここはすごくいい空気が流れているもの。森にいる魔女もいい人よ」


「そうだといいんだけどな」


 琉海とエアリスはどんどん奥へと入っていく。


 すると――


「……ん?」


 琉海の体に膜が触れた感覚があった。


「今のは……」


「結界みたいね」


 エアリスが膜にぶつかったと思った場所を振れる。


「なんでこんなところに結界が張ってあるんだ?」


「まあ、何か守りたいものがあるんじゃないかしら」


 結界に触れていたエアリスがそう言って、先に進もうとする。


「結界の中に入っちゃったけど大丈夫なのか?」


「この結界は人間向けのものだから、精霊には効かないのよ」


「精霊にはか……」


 琉海は自分の手を見て言う。


 自分の体の半分以上はエアリスの創造で作られている。


 そのせいで、精霊と誤認されることもある。


 そのとき、自分が人間ではないのだと自覚させられる。


 琉海がそんなことを考えていると――


『結界内に侵入した不届き者。それ以上進むのなら容赦しない』


 森の周囲から木霊する声。


 気配は完全に隠しているのか居場所はわからない。


「別に構わないでしょ」


 エアリスは声の主の忠告も聞かず、歩を進めようとする。


 瞬間、光の矢がエアリスの足元に飛来した。


『次は当てるわよ』


 この矢を飛ばしてきたのが、魔女なのだろうか。


「俺たちはここを通りたいだけだ。危害を加えるつもりはない」


 琉海は矢が飛んできた方向を見ながら声をかけた。


 その時に一歩足を動かしてしまった。


 瞬間――


 背後から光の矢が飛んできた。


「……くッ!?」


 琉海は背後から何かが飛んでくる気配を察知し、すぐさま体を背ける。


 体のギリギリを矢が通過する。


「後ろからッ!?」


 さっきまで前方にいたはずなのに、背後から矢が飛んできた。


 琉海は瞬時に思考を巡らせる。


「エアリス、相手は一人じゃないかもしれない」


「場所は把握したわ」


 エアリスは琉海の背後へと走り出した。


『愚かな者よ』


 再び、声が森の中を木霊し、エアリスに向かって四方八方から光の矢が襲いかかる。


「こざかしいわね」


 エアリスは《創造》の能力で二振りの剣を生み出し、矢をすべて叩き落とした。


『すべて防いだッ!?』


 森の声から驚きの声が聞こえてくる。


 さっきまでの仰々しい話し方が失われているところから、本気の攻撃だったのだろう。


 エアリスは場所がわかっているのかどんどん進む。


 琉海も辺りを警戒しながら、歩を進めた。


 相変わらず、途切れることなく光の矢は飛んでくるが、エアリスが全部叩き落としていた。


 エアリスが近づくに連れ、本数が減ってきている気がする。


『それ以上、近づくな! 天罰を与えるぞ!』


 森から聞こえてくる声に対し、エアリスは相手にしない。


「どこまで行くんだ?」


「もうすぐよ」


 すると、正面からさっきまでの比ではない光量の矢が飛んで来た。


 正面だからわかりづらいが、腕ぐらいの太さの矢だ。


 わざわざ正面から相手する必要はないだろう。


「避けるぞ!」


 琉海とエアリスは左右に避ける。


 直線の軌道を取る矢は後方に消えていった。


 わかりやすい軌道だったおかげで躱すのは簡単だった。


『よ、避けるな!』


 当たらなかったことに怒っているのか、子供のようなことを言う森の声。


 さすがにあれを迎え撃つのは悪手だろう。


 直線的な攻撃で躱しやすいのだから避けないわけがない。


 エアリスと琉海は攻撃されながらも前進し続け――


「あそこね」


 エアリスがひとつの大木を指差した。

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