第87話 王族の談話
王宮のとある一室でも予選を話題にしていた。
「今日の試合は見所があったぞ。特にスタントのところから出てきた少年はインパクトがあった」
男はソファに座りそう言う。
どこか偉そうに言うその姿はこのスティルド王国の王の姿であった。
王――バルダスの向かい側に座っているのは、王の息子と娘。
「お父様がそう言うのでしたら、本選はぜひ行きたいと思います」
「ああ、そうするといい。お前たちも強い者を見極める目は養った方がいいからな」
娘のクレイシアに言われ頷く、バルダス。
「特に人材を見極める力が強いスタントの娘を見習わないとな。あそこには良い人材が集まっている」
「見つけるだけなら誰にでもできますよ」
息子のエリックが不機嫌そうに言う。
エリックの思想は典型的な男尊女卑。
スタント公爵家は女性が領主となり領地を治め、その娘も現在は有望な人材を集めることに定評があり、力を強めてきている。
エリックにとっては面白くない存在であった。
「見つけるなら、誰にでもできるか。誰にでもできるとは言わんが、できないこともないかもしれない。しかし、その者の潜在能力を把握し、適材適所にその者たちを配置できる者は限られているだろうな。ましてや、お前にはできまい」
「あの女にはできると言うんですか?」
「できる以前に何人もの成果が存在するではないか」
バルダスの言う成果とは、アンジュやメイリのことだろう。
「お父様、でしたらティニアお姉さまを我が王家に迎えてはいかがですか?」
いい案だと思ったのか、笑顔で父親の反応を待つクレイシア。
「ふっ、もうそれは終わった。今日、丁重に断られたところだ。あの少年が本選に出たことで、スタントの威光は強まったからな。王家の力を必要としないほどに」
「そうでしたか……」
クレイシアはシュンと落ち込んだような素振りを見せる。
それとは反対にエリックは拳を強く握っていた。
(女の分際で俺を断るのか)
バルダス王がティニアの相手に用意したのはエリックであった。
エリックは一人息子であり、次期王である。
王妃になることができる話をスタント公爵家は断ったのだ。
権力を第一に考える人間であれば、王妃になれる機会を断る道理はない。
あるとすれば、メリットとデメリットを天秤にかけて、デメリットが上回っているときだ。
現在も公爵家の娘であり、次期スタント公爵家の領主となるティニアにとって、王妃となることはデメリットにはなりえないだろう。
そうなると、相手がエリックであることぐらいだろうか。
エリックが女性が権力を持つことを良く思っていないことは、有名な話だった。
優秀なティニアをそんな男の相手にしたら、飼い潰されるだけなのは自明の理。
エリザはその未来が見えたから、断ったのだろう。
「まあ、良い。スタント家も我が国の者だ。謀反を起こすわけでもない。王に成り代わるほどの力を持たないのならば、静観して構わん。それよりも明日はちゃんと来るのだぞ」
「「はい」」
父親の言葉に二人は頷いた。
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