第80話 模倣

 審判の合図で先手を取ったのは、シェイカーだった。


 身体強化魔法の練度が高いのか、動きが素早い。


 さっき戦った魔薬漬けの男と遜色ない速さだった。


「かかって来ないと斬るよ」


 一気に距離を詰めるとシェイカーは短剣を振り上げる。


 琉海は紙一重でそれを躱した。


「俺の一撃目を躱す奴が予選にいるなんてな」


 琉海がシェイカーの一撃を躱すと、シェイカーは笑みを浮かべた。


 そこからはシェイカーの一方的な攻撃が続いた。


 小回りの利く短剣で手数の多い連撃を放ってくる。


 だが、そのすべてを琉海は避けていった。


『な、なんという速さ! 神速とはこのことか! だが、それを躱し続けるルイ選手もすごい!』


 司会者の声に呼応するかのように観客も盛り上がる。


 目に留まらぬ速さで動くシェイカー。


 その攻撃をギリギリで躱す琉海。


「チッ! ちょこまかと……」


 シェイカーは両手の剣だけでなく、蹴りも混ぜて手数を増やした。


 だが、増やしたところで、琉海を捉えることはできない。


 それだけ、機動力に差があるのだ。


 琉海はシェイカーに多くの技を引き出させるためにギリギリで躱していく。


 琉海はシェイカーの一挙手一投足を観察し続けた。


「まだ避けるか……」


 剣の左右の攻撃に蹴りで下方から腹を狙ってくる。


 琉海は剣を躱し、蹴りはいなした。


 四方八方からの攻撃をものともしない。


「はあはあ……」


 避け続けていると、次第にシェイカーの息が上がってくる。


 それに比例して、動きにもキレが無くなってきた。


「もう、限界か」


 琉海はこれ以上観察しても得られるものはないと悟り、後ろに大きく飛んでシェイカーと距離を空けた。


 いま見た動きを頭の中で再生する。


 そして、その動きに重ねるように自分をイメージする。


「よし、問題なさそうだな」


 琉海は構えを取った。


「…………ッ!」


 その構えを見て、シェイカーの目が見開く。


「短剣だと殺してしまうから、手刀で代用するか」


 琉海はそう呟き、序盤のシェイカーのように一気に距離を詰めた。


「なッ!」


 一瞬で間合いを詰めた琉海に、シェイカーは一歩後ずさる。


 そこからは、シェイカーの動きを完全に模倣した琉海の連撃が襲う。


 シェイカーには躱すことができず、防御に回るしかなかった。


 だが、防御に回っても防げているのは、半分以下。


 あまりの手数の多さと速さに翻弄されていた。


 そして――


 琉海の手刀を両手で塞いだ瞬間、シェイカーの頭を回し蹴りが直撃。


 琉海の蹴りはシェイカーの意識を刈り取った。


 圧倒的差を見せ付けられて、シェイカーは地に伏した。


『な、なんと! 攻勢にでていたシェイカー隊長が一瞬で防戦一方! そのまま撃沈された!』


 司会者の驚きを表すかのように観客も騒然としていた。


 すぐさま確認する審判。


「しょ、勝者、ルイ」


 予想外の結果に審判もどもってしまった。


『こ、これはまさか過ぎる結果です。去年の準優勝者が予選敗退!』


 琉海は審判のジャッジを聞くと速やかに舞台から退場した。

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