第60話 三人の強者

 アンジュはその三人について説明してくれた。


 王国には、王族直属の騎士団が存在するようだ。


 その騎士団の名はホルス騎士団。


 有事の際、王の命令にのみ従い、敵を屠る最後の砦ともいえる騎士団。


 その騎士団は精鋭揃いらしく、強者に分類されるアンジュもホルス騎士団から勧誘があった。


 その時、アンジュの家族は大手を振って入団させようとしたが、ティニアが断固としてアンジュを手放そうとはせず、交渉は決裂したらしい。


 そんな一幕もあったホルス騎士団には、三人の隊長が存在し、各々が部隊を率いているとのことだ。


 そして、その部隊は王都の有事以外は小競り合いの起こっている戦場などに割り込んでいく。


 まあ、全員ではなく、隊長三人とその側近が数人らしい。


 アンジュの話を聞く限り、その三人は所謂バトルジャンキーのようだ。


 そして、その三人がこの大会を見逃すはずがなく、参加するのは確実だろうということだった。


 そこでふと思ったことを口にした。


「そのホルス騎士団の団長は参加しないのですか?」


「それはないです。彼はスティルド王国最強ではありますが、王国を守ることを第一に考えている人なので、このような催しには一切参加しません」


 アンジュが自信満々に断言するところを見るとイレギュラーは起きなさそうだ。


 ホルス騎士団の三人について、どんな相手なのか気になった。


 アンジュはパーティーで会うだろうから、その時に教えてくれるらしい。


 その三人が今大会で一番注意する参加者のようだ。


 アンジュより強いのがその三人ということは、アンジュが出場したら、その三人と

戦わなければベスト四は確実なのだろう。


 すると、好成績を残すとなると、優勝か準優勝ぐらいだろうか。


 琉海は内心でため息を吐く。


 その三人はアンジュより強いという。


 その強さもどのぐらいなのかわからないのが、琉海の心労となっていた。


 まあ、最悪創造も使うことを考えておく必要がありそうだ。


 琉海はアンジュから貴重な情報を聞き終えると、完全に日が昇り、朝を迎えた。


 そして、屋敷の中も起きる人が増え、騒々しくなってくる。


 今日は大会初日。


 公爵家であるスタント家は色々と準備をする必要があるようで忙しなく働く使用人たちの死型が見えた。


 アンジュとの話を終えて朝食も済ませると、執事やメイドたちに捕まえられ、部屋へと連行された。


 そして、タキシードのような服を着せられ、採寸を行う。


 昼の開会式には、正装で参加することになるようだ。


 琉海はその間、着せ替え人形になり、様々な貴族服を着せられ、合いそうな服を決

めてもらった。


 こんなことになっていたのは、琉海だけではなく、静華やエアリスも別の部屋で同じようなことになっているらしい。


 昼前になると、化粧にドレスを着た女性たちが玄関前に集合していた。


「遅かったわね」


 エアリスがそう言ってきた。


 エアリスは黒を基調としたドレスを着ていた。


「何か言うことはないの?」


 エアリスはその場でくるっと回って琉海に見せつけてくる。


「綺麗だね。似合ってるよ」


「ふふ、よろしい」


 笑顔でそんな風に言われると言ったかいがあったと思う。


 そして、そんな一幕を見ていた静華とティニアがこちらを見てきた。


 その視線でわからないほど琉海も鈍感ではない。


「静華先輩も綺麗ですよ」


 静華先輩は紫を基調としたドレスだった。


「そう。ありがとう」


 照れ隠しなのか、若干そっけないふうに言われた。


「ティニア様もすごく綺麗です」


 ティニアは赤を基調としたドレスを着用していた。


「ふふ、ありがとうございます」


 ティニアも笑顔でお礼を言う。


「あら、私には何かないのかしら」


 ティニアの母――エリザがこちらに体を寄せてくる。


 ティニアと同じく赤を基調にしているドレスなのだが、大人の色香を感じる扇情的

なドレスを着ていた。


「す、すごく綺麗です」


 まさかのスキンシップに琉海は、若干顔を赤くして答える。


「そう、あ・り・が・と・う」


 耳元で言ってくるエリザ。


「お、お母様!」


 ティニアも赤面しながらエリザと琉海の間に割り込んだ。


「あらあら、やきもちかしら」


「ち、違います!」


 エリザはティニアの慌てようを楽しむかのように笑みを浮かべ、琉海から離れた。


「す、すみません。お母様が変なことをして」


「いえ、大丈夫ですよ」


 琉海が気にしていないと答えると、メイリが玄関前で待っていた。


「では、全員揃いましたので、皆様こちらへ」


 メイリは玄関の扉を開け、二台の馬車に案内する。


 全員が乗り込むと、馬車は大会の会場となる場所に向かった。

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