第58話 起床

 翌朝。


 昨日の夕食も豪勢なもので歓迎された。


 酒も進められたが、遠慮して食べるだけに留めた。


 ちょっと食べ過ぎたせいか、まだ若干、腹の中に残っている感じがする。


 ベッドから降りて、寝室を出るとソファに寝転がっているエアリスがいた。


「なにやっているんだよ。エアリスの部屋はここじゃないだろ」


「私に部屋なんて不要よ。それにルイと離れているとマナの供給効率も減るし、そっちの方が問題よ」


「そういうことか……」


 琉海以外の人と会話するのをエアリスが喜んでいたので、常にマナを生成しエアリスに供給し続けていた。


 しかし、距離が離れると供給量が目減りするようだ。


 契約精霊とのパスを通ってマナが送っているのだが、長距離になるほど空気に触れている時間が長くなるため、一部のマナが空気に溶け込んでしまうようだ。


 今では、無意識にマナを生成できるほど上達しているが、上級精霊が顕現するにはかなりのマナが必要となる。


 できるだけマナの供給効率は減らしたくないのだろう。


「それにしても、早いじゃない。まだ朝日が出たばかりよ」


「ああ、ちょっと体を動かそうと思ってね」


「そういえば、今日は大会だったわね」


 エアリスの言葉で思い出し、琉海はため息を吐く。


「まあ、今日は開会式と貴族の顔合わせのパーティーがあるだけだから、大会本番は明日からみたいだけどな」


「そんなことを昨日の夕飯に言ってたわね」


「それにしても、どうしたものかな」


「何を悩んでいるのよ」


「いや、精霊術のことだよ」


「別に気にしなくていいと思うわよ。原理は魔法と一緒なんだから、魔力の高い人だと思われるぐらいじゃない」


「身体強化は何とかなると思うけど、《創造》をどうするかなんだよな」


 琉海の懸念しているとこはそこだった。


 騎士武闘大会のルール上では、相手に直接ダメージを与える魔法は禁止とされている。


 つまり、強化魔法や琉海の使える《創造》は使用可能ということだ。


 ちなみに、魔法主体の大会は別にあるようだ。


 琉海の精霊術に制限がないルールであることは嬉しいのだが、《創造》を使ったら周りからどんな反応があるのか、不安があった。


「そうね。私のオリジンは誰にも真似できないから、皆驚くんじゃない」


 エアリスはその瞬間を想像したのか、口元がにやけている。


「いや、下手に注目されたら、今後の動きに支障が出るかもしれないだろ」


「それもそうね。じゃあ、無手でいいんじゃない?」


 簡単に言うエアリス。


「無手か…………」


 何か武器はないかと思案してみたが、精霊術による身体強化をするとなると、普通の剣では耐えあれないだろう。


 武器で戦わなければならないというルールはなかったはず。


 そこまで思考が行き着くと――


「それしかないか」


 騎士武闘大会という名前から、武器を持つ必要があると思ってしまったが、別に武器を持つ必要はないだろう。


「ありがとう。エアリス」


 琉海は礼を言って、エアリスの頭を撫でた。


 エアリスは目を細めて猫のように気持ち良さそうにする。


「さて、そうと決まったらちょっと体を動かしてくるか」


 琉海は起きたばかりの体をほぐしながら部屋を出た。


 エアリスもその後を追った。

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