正々堂々Vs.威風堂々
4月4日。
第80回選抜高等学校野球大会。決勝。
先攻。福岡県立水鏡高校。(九州第一代表)
後攻。埼玉県立深谷青淵学館高校。(明治神宮大会優勝校)
平成では珍しい公立学校同士による決勝戦だ。ただ青学は第三セクター(半公半民)なので厳密には違うんだけど。
先発は凪沢圭介。汗ばむような陽気。満員の甲子園球場。
前日、亜美の学校が決勝で上村学園に敗れてしまった。同じ九州⋯⋯と言っても福岡と鹿児島なんで両端だけど、仇を討ったるわ、という感じ。うん、かなり東日本目線でごめん。
凪沢は落ち着いた立ち上がり。1回を3人できっちりと抑える。よーしよし。
相手の先発はエース
最初の3人も三者凡退。あちゃー。ウチは7−9番の3人は計算に入って無いんで困るゥ。
「いや、ちゃんと球筋は目に焼き付けてきました。」
「まあ次は見ていてください。」
「いやここはやはり先輩のお手本が見たいなぁ。」
頼むぞ天才児ども。まさか言い訳だけ俺を超すつもりではあるまいな。
2回表、四番中西。敬遠せずとも四球やむなしの攻め方。結果的に四球。なんとか無失点で抑える。
その裏。俺も四球かな。そうたかを括っていたら初球から入れて来た。勝負しますかそうですか。うーむ。闘志あふれる眼でいらっしゃる。しかし何という回転。回転の質は理想舎の藤村より上かも。
実は俺も本気を出す理由もある。由香さんからメジャーのスカウトが今日の決勝を観に結構来ているらしいという情報を得たのだ。もちろん、主な目的は日本のプロ野球を見に来るのだが、ついでに俺も見にくるそうだ。
これは良いところを見せないと。
中西の凄いところは俺に対しても正々堂々と勝負を挑んで来たこと。大抵は四球になっても良いという体で投げてくるがきちんと勝負してくるのは珍しい。俺もここはしっかりと応えていこう。速球一辺倒の藤村に比べて中西はしっかりとチェンジアップを駆使してくる。ただそのストレートとチェンジアップの投球フォームのわずかな違いは「選球眼魔法」で丸見えである。
ストレートに合わせてバットを振り抜く。160km/h近いんじゃね、これ。それでも少し振りおくれたか、左打席だがレフトスタンド方向へ。切れるかな、と思ったらポールに当たる本塁打。いや、ずっと150km/h前後で投げてたよな。さてはこれまで手加減していたのかよ。山鹿世代に比べたら俺の世代の連中は小粒だろうなんてたかを括っていたからなかなかどうして。いや、間違いなく冬の間にパワーアップして来たのだろう。
力尽きるまで投げ続けた昨年の夏の悔しさをバネにして研いできた牙を剥くか。ただ、自分が成長したかもしれないが、ライバルが同じところに立ち止まっているとは思わないことだ。
3回は両チーム無得点。4回表、2巡目の打席で中西は凪沢のカーブを完全に捉えてレフトスタンドにアーチをかける。同点。
その裏、三番小囃子から。俺から中西のストレートとチェンジアップのちょっとしたフォームの違いを聞いただけであっさりとチェンジアップを打って二塁打に。おー、やっぱりすげえな。
俺も続くか。俺もチェンジアップを狙ったがフォークで三振。ありゃ?フォークなんて投げられたっけ?
俺は記録員としてベンチに入っている知世に声をかける。今や女子マネトップ、自ら「ゼネラルマネージャー」(笑)を自称する存在になっていた。
「今、スコアつけてるんですけど。⋯⋯ちょっと記録代わって。」
少し機嫌悪そうに言いながら、隣に座るやつにスコアブックを押し付けると分厚いノートをカバンから取り出す。水鏡の付箋が付いているところを開けると
「うん。九州大会で投げてるね。神宮大会で打たれて止めてるっぽい。てゆーか、健さん去年の夏に打ってるじゃないですか、落ちなかったやつ。あれからは試合の後半は封印しているみたいですけど。」
と答える。
「サンキュ。忘れてたわ。あん時は落ちなかっただけだ。」
俺はアメリカ式の野球教育が長いので速球に合わせる方がいいかも。それよりも知世が「男漁り」のためにマネージャーやってた前世とだいぶ違ってるよ。
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