認め合う男たち。

 2回表、理想舎高校の攻撃は四番藤村から。外角低めにキッチリと投げ込まれた速球をこれまたキッチリと打ちかえされ本塁打(大会9号)。あっという間に同点に追いつかれてしまう。打者としての能力ポテンシャルも圧倒的な高さだ。


 ただ今の胆沢は打たれても項垂れるような男ではない。気持ちをしっかりと切り替えて後続を断つ。


 やはり人間は置かれた環境で大きく変わっていくものだと思う。前世の胆沢とはかなり違う。もちろん、前世とは「時代」も違うのもあるが。地元の公立中学から普通科の県立高校の野球部へ。その時は完全に「お山の大将」だった。


 周りを見下していたし、露骨に自分に媚びる者は優遇し、そうでない者は徹底的に排除していた。他者の意見に耳もかさなかったし、ちょっとしたアドバイスすらバカにされたと敵意をむき出しにした。


 やはり身体もいちばん大きかったし運動能力にも優れていたし、野球もいちばん上手かった。だからこそ許されたわがまま。


 だからこそ、青学に彼が来た事を知った時は驚いた。上には上がいる世界。そんなところに入って大丈夫なのか?と。きっと我慢できず高校は内部進学せずに別のに行くだろう、そう踏んでいたのだ。


 でも頑張ってここにいる。今でもすぐにカッとなる性格は変わりはないが。もちろん、友達になる事はない。あいつはいつでも機会があれば俺を追い落としてやりたいと思っている。そう虎視眈々と狙っているのだ。それは今でも変わらない。


 2回裏、俺はベンチで上位打線の一年生4人を集める。

「次の回で一気に得点を狙うぞ。藤村は直球しか投げられないわけじゃない。高校生程度が相手なら直球で十分だと思っているだけだろう。」

「なぜそう思うんです?」

「打たれても余裕だからな。『まだ本気を出していない』というとこだろう。本気を出される前に一気に叩く。速いだけなら打てるはずだ。」

「まあ変化球が無い分張り易いですからね。」


 3回裏、振りかぶったワインドアップ速球を安武が2塁打。三原が送り、小囃子がレフト前に適時打タイムリー。再び均衡を崩す。


 打者バッター俺。今回はしっかりと魔法をかける。


 小囃子が一塁にいるのに藤村は構わずにワインドアップ。どういうつもりだよ?当然小囃子は二盗。俺は一球見送ってストライク。


 それでもワインドアップ。セットアップではない「100%の直球」で俺と勝負したいのかもしれない。安心してくれ。俺も魔法で100%だから。


 続いてインハイでボール。次は球審好きの低めでしょうね。うーん、やっぱりそこストライク取る?


 さあ次はどうする。普通の投手なら変化球挟むけど。嘘?ど真ん中来る?


 カウンター魔法が発動!バットの真っ芯で捉えられたボールは左翼席上段へと突き刺さる。2ラン本塁打(大会10号)。電光掲示板には160km/hの表示。

歓声と悲鳴が混じる中、俺はダイヤモンドを一周する。藤村は電光掲示板の表示を見つめながら首をかしげた。


 確かに速いし回転も凄い。だがバリエーションがあまりにも少ない。チェンジアップを一つ交えるだけでこちらが勝てる確率がガクンと下がりそうだ。


 そして、続く帯刀がソロ本塁打(大会11号)。この回一気に4得点。

俺たちこそが「甲子園に棲む魔物」の化身だからな。

「うまく行きましたね。」

小囃子が俺の隣で呟くように言う。

「そうだな。」


 とは言え、あちらは必死になって追い上げをはかってくるだろう。藤村の得点能力を考えると4点差は決してセーフティリードなんかじゃない。


 問題はその「熱量」に胆沢が耐えられるかどうかだ。文字通り相手チームは球に「喰らい付いて」くるのだ。ファウルで粘る相手に胆沢は投球数を稼がれる。

苛立つあまり「ぶつけて」やろうか、と荒ぶる胆沢を祐天寺がなだめる。


 一方の藤村も牙を剥く。ついに「変化球」を解禁して来たのだ。それは4回裏二死無走者。一番の安武に打順が帰った時だ。回転数が「キレ」を演出する藤村のボールが全く回転しなかったのだ。それこそが藤村の持つ「魔球」のその1、ナックルだった。


 良くも悪くも俺たちは認められたのだ。藤村の「好敵手ライバル」として。




 


 


 






 

 



 

 

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