祝勝会

  約束していた昼過ぎに亜美の家を訪れる。いやにたくさん靴があるな。おばさんに案内されると中には「若者」がいっぱいいた。なにこれ?


 「健、覚えてる俺だよ?」

次々と「私は誰でしょう」クイズをされる。どうやら同じ小学校の同級生であったようだ。皆地元の公立中学校(前世の俺の母校)からそれぞれ高校に進学してるわけだ。ごめん、半分くらいわからんかった。


 連絡先を知っている亜美に取り次ぎを求められたが、今日が会う約束だと知られ押しかけられたらしい。断るにも男女の付き合いがないなら問題ないよね、と押し切られたらしい。まあ、亜美が保留にしている関係なんだから半分は自業自得なんだが。少しも落ち着かない。せっかくケーキも買ってきたのにおばさんと亜美と亜美の妹の分しかないぞ。


 まあ野球に関心があるのはそれほどいない。甲子園の優勝チームの有名人メンバーが同じ小学校だったという春休み明けのネタが欲しかっただけだろう。写真を一緒に撮ったり、サインをしたりが主だった。一応、同窓会みたいな感じだから、当時の先生やらここにはいない同級生の動静やら知れて良かったと言えば良かったのか。ちやほやされるのは気分も悪くないしね。


 3時間ほどでお開きになり、俺はリビングの片付けを手伝いながらようやく本題の「デート」に入る。


「だいたい私もセンバツだったのに誰も関心無いのは酷いよね。」

亜美の膨れつらを横目で見ていたら目が合った。

「優勝おめでとう。」

「ありがとう。」

「また、アメリカだって?」

「うん。」

俺はアメリカで通うアカデミーの話をした。

「なんか健の学校と似てるのね。」

「そりゃ姉妹校だからね。カリキュラムは互換性が高いんだよ。」

「健は英語ができて良いよね。私もが使えたらなぁ。」

おい、今なんて⋯⋯?

「あ。」

亜美は慌てて目を逸らす。


「ねえ、まだその『異世界』の夢、って続いてるの?」

亜美は黙ったまま頷いた。しばらくして皿洗いも終わりリビングで亜美のお母さんはキッチンで夕飯の支度。


 「別に劇的な話は何もないよ。私と知世ちゃん、って後輩と二人でマネージャーをやってるだけなんだ。ご飯の用意と洗濯と買い出し。みんなが帰って来れば街へ行って買い出し。やってることが所帯染み過ぎてファンタジー要素はほぼほぼないんだから。」

 まあそうなるわな。

「でもさ、夕陽とか星空がとても綺麗でさ。あんたと毎晩焚き火のそばで

みんなの防具の繕いとかやってんの。他のみんなは勝手に街へ飲みに行ってさ。手伝ってくれんの健だけなんだよね。しかもさ、夢の中の健は野球が下手くそなんだ。現実のと違ってさ。」


 それは間違いなく異世界の記憶だ。

「ダッジウエー村の当たりか⋯⋯。」

  魔王に仕える四天王の一人を倒し、ようやく民衆から「勇者」として受け入れられはじめた頃だ。

「え、なんで村の名前知ってんの?」

あ、やべ。

「さっき亜美が言ってたじゃん。」

「そうだっけ。」


「沢村君、夕飯食べて行って。」

お母さんが誘ってくれる。でもお父さん帰ってくるんじゃ……。

「パパが是非ご一緒して欲しいって。」


すごいなぁ、甲子園ブランド。


お父さんの対応は以前あった時よりずいぶんと変わっていた。まあリトルの時は良く顔を合わせいたんだけどね。

「いやぁ、こんなに健君が立派になるとはね。あははは。」

ああ、なんか居た堪れないこの雰囲気。娘たちのパパさんへの視線が痛い。きっとあんなやつ認めんぞ!的なことでも言ってたんだろうなぁ。


 ようやく家に帰ると家族が帰っていた。

「ごめんね。家に帰るの遅れて。」

まあ俺も家族には色々協力してもらっているからしょうがないよな。


 いろいろお土産を持たされたらしく、お土産の配布先の選定を手伝わされる。まあ、親父も有給取って会社の同僚に迷惑かけたからしょうがないのか。


「あと色紙よろしく。」

ドンと積まれる。俺、週明けにはアメリカに戻るんだけど。

まあ荷物の大部分は向こうに置いて来てあるから荷造りが要らないからいいけど。


 翌日は県庁と市役所へ。めんどくさいことこの上ない挨拶行脚あいさつあんぎゃが始まる。こんなのが週末いっぱい続くと思うとウンザリ。


「これも勝者の務めだよ。」

山鹿さんが俺の肩を叩いた。


だからこそ、週明け、俺は機上の人になる。この解放感がたまらない。

「ふー、やっぱりアメリカはいいわ。」


エコノミークラスで窮屈だけど、自由と実力主義の世界は俺にとって居心地がいいのだ。

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