黄金世代な先輩たちに囲まれてしまった。

新たなチームへ

 ジュニアは日本選手権で団体戦で3位、シングルスでベスト8入りで終わった。あれれー、自信満々に余裕で優勝できるとか言ってなかったっけ?


「いやもう暑さに負けたわー。僕はスタミナが課題やね。暑いは蒸すわ、まるでシュウマイにでもなった気分やわ。」

が彼の敗戦の弁。

「シュウマイならグリーンピースを頭に乗せなアカンで?」

「いらんわ。僕は豆は嫌いやねん。……マメな女の子は好きやけどな。」

ジュニアのやつ、大会会場が大阪だったからまだ「関西弁」キャラがぬけていないな。


 俺たちも部活休みはお盆期間だけだった。というのも三年生が抜けた新チームを始動させねばならないのだ。新しいチームの大目標ビッグチャレンジは翌春の全国選抜大会への出場だ。


 高校野球と同様にリトルシニアの全国大会は夏の「選手権」と春の「選抜センバツ」なのである。ただシニアの場合は夏が32チーム、春が48チームと高校野球とは出場チーム数が逆になる。


 関東連盟の代表として選抜に出場できるチームは合計17チーム。関東連盟の秋季大会で16強にはいらなければならない。そして関東大会に出場できるのは各支部大会を勝ち抜いた48チームのみなのだ。その「一次予選」ともいうべき「北関東支部秋季大会」で上位9チームまで入る必要がある。


 その「北関東支部秋季大会」は9月に入ってすぐに開幕するのだ。つまり本番まであと2週間足らずなのである。


 ただし、青学せいがくは夏の選手権に出ているためシード権があり2回戦から出場というアドバンテージがある。


  新しいキャプテンは2年の捕手キャッチャー山鹿拓郎やまがたくろうさん。エースの中里大智なかざとだいちさんとバッテリーを組む。


  二塁手の能登間一斗のとまかずとさん、三塁手の伊波樹いはたつきさん、左翼手で控え捕手の住居陽太郎すまいようたろうさん。この5人は1年の時から1軍にいて、攻守ともに明かに全国レベル、怪我でもしない限り高等部の最後の夏までレギュラーは譲らないだろう。プライベートでも仲が良いので他校の引き抜きにもなびかないだろうというのが周囲の見立てだ。人呼んで青学の黄金世代ゴールデンエイジ


 俺は一塁手、中堅手、右翼手のいずれかに入り3番打者を任せる予定だと監督に内々に告げられた。一塁手は左投げが理想とされているため、投打ともにスイッチできるよう訓練してきた賜物でもある。


 1年生で1軍は俺の他に、夏のリトルの選手権で準優勝した東京のチームから来た投手、凪沢圭介なぎさわけいすけが入った。


 他の1年生は9月から始まる新人戦で実戦経験を積むことになる。そして秋季大会が終わった頃にもう一度編成が変わるのだ。胆沢は新人戦チームのエースナンバーをもらっていた。


胆沢が俺を呼び止めた。

「うまいことやったな、サワ。俺は絶対に1軍にのし上がってやるからな。」

お、おう。待ってるよ。俺も落とされないように頑張るわ。


 あいつが嫌なところは自分で「のし上がる」のではなく他人を「ひきずりおろそう」とするところなんだけどね。だいたい、自分だって1年ではエース格なんだから十分期待されてるじゃん。それとも前世から続く「下積み」人生のせいで今の状況でも十分に満足できちゃう俺の方が問題なんだろうか。


 俺と凪沢、胆沢は名字から「3沢さんさわ」って監督から呼ばれてるくらい目をかけてもらってるんだけどな。


 俺は投球の練習も始めた。幼少期から続けたスイミングで肩周りが鍛えられた結果、肩甲骨の稼働領域が広がり前世の自分では想像できないくらいびっくりな球速が出た。


「お前なんでもできるな。そういうのをなんだ、『器用貧乏』っていうんだっけ?」

伊波さんが俺をからかう。伊波先輩タツさんそれ、けなしてます。伊波さんは沖縄出身でとにかく明るいチームのムードメーカーである。だからまったく嫌味がない。


タツ、それは『多芸多才』って言うからな。」

中里さんが訂正してくれる。

「ぼ……ボケただけやん。」

完全に天然でした、ありがとうございます。


 この人たちについていけばとりあえず来年の夏まで、いや高校でも甲子園出場でさえ夢ではなさそうだな。







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