第8話 拗らせ×拗らせ

ディークバルドと恋人になり数分後、私たちは転移魔法で王城にいた。煌びやかな装飾のホールは、魔導士団が所有している建物の中にある。


「えーっと、ここは?」


宮廷魔導士の中でも5人しか使えない転移魔法を、「先に戻る」と言っていとも簡単に使って見せたディークバルド。目をぱちぱちさせている私を見て、彼は蕩けるような笑みをくれた。


「王城の外からだと、転移していい場所が決められている。ここはそのうちの一つなんだ」


「そうですか……」


ぐるっと見回すと、見張りっぽい受付の文官がいた。


「おかえりなさい。あれ、王女様もご一緒ですか」


赤毛のくるくる髪の青年は、白いローブに黒いズボンといういで立ちで、魔導士団の専属スタッフ。柔和な笑顔はいかにも優しいお兄さんである。


「リンド、俺はこれから部屋に篭る。誰も入れるな」


「は~い」


手をひらひらと振って見送る青年。

ディークバルドは私の肩を抱き、彼の研究室のある塔へ連絡通路から入って行く。


「研究室でどうするの?」


魔術狂いという噂は本当だったのか。帰ってきてすぐに部屋に篭るなんて。感心して横顔を見つめていると、視線に気づいた彼が私を見下ろし、またうっとりと微笑んだ。


「研究室に用はない。奥に寝室がある」


「寝室」


え?それってどういうこと?

急展開すぎて頭がついていかない私は、理解できないまま彼についていった。


研究室の二つ向こうの部屋、ここは彼のプライベート空間。宮廷魔導士の中でも選ばれた者にしか与えられない、専属の居住空間だ。


「こっちだ」


「は、はぁ」


すたすたと入って行く彼に続き、私は本が平積みになった部屋を抜けて奥へと向かう。


――ガチャリ。


ディークバルドが近づいただけで自動で開く扉。彼が魔法で制御しているという。


「ユウナ」


部屋の中央には、きれいに整えられたベッド。

さすがに「え?」と思って私はそれと彼の顔を交互に見比べた。


「この世の中で、俺が一番ユウナのことを知っていたい。今すぐ抱きたい」


「はぃ!?」


ぎゅっと抱き締められて頭や頬に次々とキスが落とされる。


待って、展開が早すぎない!?


あああ、でもこんな風に熱烈に求められたら拒否できるわけもなく……!


「わ、私、これでも王族なんだけれど」


婚前にそういうことはいけないのでは。

いや、でもダメって言われていないしなぁ。


ん?当然だから言ってなかったんだって?


いやいやいや、でも王位なら弟が優秀だから私が女王にならなくても問題ない。むしろ私みたいな邪悪な女が女王になるのは、不適合すぎるとも思っている。


大きな手が髪や肩を撫で、上着を脱がして胸当てなどの防具をどんどん剥がしていく。


「ユウナは、俺が嫌い?」


「いいえ、好き。愛しているわ」


即答した私を満足げに見たディークバルドは、唇を重ねつつもせわしなく手を動かしてやはり衣服を剥ぎ取っていった。


「ユウナのことが全部欲しい。王族なのはわかっているが、一人の女性としてユウナを愛している。邪魔する者はすべて葬り去るから問題ない」


「ディークバルドったら」


そうか、じゃあ安心ね。


「でも、どうしてもダメだって言うなら三日我慢する」


「三日」


短っ!

でも、まるで叱られた犬みたいにしょぼんとされては、私の身体なんて何個でも差し出したくなる。


そもそもやっと見つけた愛し愛されるお相手を、みすみす逃すわけにはいかない!


ええ、ディークバルドを捕まえたいのは私の方よ!!貞操がなんだ!

これまでだって、愛してくれもしない相手に差し出してきたわ。


500年の拗らせは、ここで昇華しなきゃ!


見つめ合うと、どれほど彼が私を求めているかわかる。


「ユウナ……」


そうか。

私は500年も彷徨っていたけれど、彼もきっと自分を愛してくれる人を探していたんだ。


どうしようもない渇望。

これは私たちにしかわからない。


沈黙を切るように、また唇が合わさった。薄い胴着越しに触れる手が、もう絶対に離さないといわんばかりに背中を強く掴んでくる。


息切れするほど激しいキスの後、私はもうすべてを受け入れるつもりでいた。


「しょうのない子ね」


くすりと笑った私は、500年間の拗らせをすべてぶつけるかのように積極的にキスをする。


「愛しているわ、ディークバルド」


ベッドにどさりと倒れ込んだ私たちは、それから三日間ずっとその部屋に篭って愛し合っていた。


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