世界一可愛い俺の妹(小学三年生)が『異世界帰り』を自称した。そして右手に『ドラゴン』が眠っているとまで言い出した。……う、うん。中二病に目覚めちゃったかな? 兄として、そっと寄り添ってあげよう
第16話 自称、アイスの棒……おっと、レイピア使いさんは帰る家がないそうです。
第16話 自称、アイスの棒……おっと、レイピア使いさんは帰る家がないそうです。
それから何故か、三人で食卓を囲むことになった──。
仮にもカリンの客人だ。“帰れ”とは言いづらい。
でもだからって、まさか夕飯まで食べていくなんて思いもしなかった。
「へぇ。見た目は上出来じゃない。私に負けたくせに」
事もあろうかこの女、台所に立つ俺の斜め後ろで腕を組み、揚げたてのコロッケを見て偉そうなことを言ってきた。
「嫌なら食べんな!」
「なっ! まだそんな減らず口を! ノーマルのくせして生意気!」
なんだかとってもおかしなことになっていた。
「こら! 二人とも仲良く!」
そして九歳児であるカリンが宥めるところまでがお約束の展開。
いやまじで。早く帰ってくれないかな。
とは思うも、しっかり三人分の夕飯をこしらえる俺は場に流されている──。
今晩はカリンのリクエストもありコロッケにした。なんせ中二病に目覚めたあの日以来、カリンが夕飯をリクエストするなんて初めてのことだったから、腕によりをかけて最高のコロッケを作ってしまった。
と、言うのに。
なんちゃらシンフォニーが居る。
「ボーっとみてるだけじゃダメだよ。ほら、これでテーブル拭いて」
カリンが言いながら布巾を渡すと、レオナるなんちゃらーは「ふんふふーん。ふふふーんのふーん」と鼻歌混じりにテーブルを拭いた。
棘のある言葉ばかり使う奴だけど、これで意外と素直なところもあるかなと思うも、
「ふんっ。まあいいわ。仕方ないから食べてあげる」
次に口を開いたかと思えばこんなこと言いやがった。
いやガチで、とっとと帰ってくれないかな──。
そうして、三人でダイニングテーブルを囲い「いただきます」をすると、れおなるなんちゃらーさんはパクッとパクパクっとモリモリっと食べ始めた。
「ふぅん。……まぁ食べられないことはないわねっ!!」
とか言いつつ、しっかりご飯を三杯もおかわりして、さらに明日のお弁当用にと残しておいた分までたえらげてしまった。
腹ぺこか!
ま、まあ。ここまでたえらげてもらえると作り甲斐があるというのもこれまた不思議なもので。
「まあまあだったわね。ごちそうさま!」
こんなふざけたことを言ってはいるが、彼女なりの精一杯の褒め言葉なのだろうなと思った。
どんなに悪態をついても、“いただきます”と“ごちそうさま”はちゃんと言えるみたいだしな。
「腹が減ったらいつでも食いに来いよ。こんなもてなしで良ければいつでもするから。カリンのお友達だしな」
「なっ! 私の腹を掴もうって算段ね! あさましい!」
「ばっか! そんなんじゃねーよ!」
これが本当の本当に不思議なもので、ご飯を食べ終わる頃には普通に喋るようになっていた。
そんな俺たちの様子をカリンが微笑ましげに見ていた。
「喧嘩するほど仲がいいってことだね」
「「違う!!」」
「ほら、息ぴったり。これなら大丈夫そうだね」
一体何が大丈夫なのか。
などと思っていると、雲行きが徐々に怪しくなってきた。
「じゃあ食べ終わったから洗い物しよっか。この家のルールは少しずつ教えるから」
「あぁそっか。あまりにも美味しかったから定食屋かなにかかと勘違いしちゃった。カリンの家なのよね」
まあこれは聞かなかったことにしてあげよう。
悪い気はしないし。むしろ素直に嬉しいと思ってしまうのは、夕飯を作った者なら誰しもが思うことだろう。
そうして洗い物が終わると、カリンが驚くべきことを口にした。
「お兄ちゃん。お願いがあるんだけど」
「おうどうした? カリンのお願いならなんでも聞いちゃうぞ!」
「うん。もう着ない服あるよね? レオナにパジャマとして貸しあげてくれないかな」
なんとなくだけど、そんな雰囲気はあった。
そうか。泊まるつもりなのか。
今日くらいなら構いやしないけど明日も平日だし学校あるよな。ぱっと見た感じ中三くらいな感じもしなくもないんだよな。
「それは構わないけど、向こうの親御さんは心配とかしないのか?」
「親なら居ないわよ」
俺とカリンの会話を聞いていたのか、なんちゃらーがムスッとした声色で答えてきた。
「すまん。悪いこと聞いちまったな」
「別にいいわよ。そうやって気を使われると余計に腹が立つわ」
訳ありか。その年で中二病を振りかざしてるんだ。なにかあるとは薄々思っていたけど。
「レオナは天界と人間のハーフだからね。少し特殊なの」
「そーいうこと。あなたのようなノーマルと同じ物差しで考えないことね。だから気遣いは無用よ」
話がだいぶややこしくなってきたな。このタイミングで中二病設定を広げてくるとは。
本人が親は居ないって言ってるんだから、それ以上のことは聞くまい。
でもな、この様子だと家出少女の可能性だって無きにしろあらずだろ。
ここはひとつ。やんわり聞いてみるか。
「泊まるのはいいが、普段はどこで寝泊まりしてるんだ?」
「普段? 騎士団の宿舎はあったけれど、帰還するほうが珍しいくらいだったわ。遠征先や道中に街があれば宿に泊まることもあったけど、そう言われてみると大半がキャンプだったかしら」
俺が呆気に取られた表情をしていたからなのか、カリンは俺のズボンの裾をグイッと引っ張った。
「ごめん。言うの忘れてた。今日からレオナとこの家で一緒に住みたいんだけど、だめかな?」
これはまた、予想の斜め上を逝った。
今日だけ泊まるとか、暫く泊まるとかじゃなく住んじゃうとは……。
これはさすがにだめだ──。
「何日か泊まるくらいならいいけどな、住むってなると賛成はできないぞ。犬や猫が家族に加わるのとはわけが違う。お兄ちゃんだってまだ未成年だし、カリンのお友達だってそうだろ?」
「それに関しては大丈夫。お兄ちゃんが心配するようなことは何もないよ。全部うまいこといくから安心して」
だめだ……。まったく話が通じていない。
「えっとね。レオナからは微量のマナを感じるんだよね」
「ないわよ?」
カリンの言葉に対しレオナは即答するも、「顕現せよ!
「ほら、何も出ないじゃない」
「いやいやレオナ。内側にあるわけないじゃん。この世界ではマナを生成できないんだから。足の裏とか髪の毛の内側とか、くっついてないか探してみなよ」
カリンは溜息混じりに言った。
もはやマナってなんなんだ。
微生物か何かの類なのか。
この二人が合わさると誤った中二病設定に拍車が掛かるな……。
って……。いま割と真面目な話をしていたのに、どうしてこうなっちまうんだよ……。
そんなことを思っていると、この女は体中を散策し始めた。
そうして──、
「本当だ! あった!」
あるんかい!!
と、突っ込みたくなるもぐっと堪えた。
これで二人は楽しんでいるのだなと思うと、邪魔をするのも気が引ける。
家の中でおままごとする的なことだと考えれば、横からとやかくいって止めるのは違う。
これはこれで、カリンの良い遊び相手になってくれてるんだよな。……たぶん。……いや、そうだと思いたい。俺と対して年齢の変わらないレオナるなんちゃらーさん。
でもこれで話の流れは掴めた。
マナがあるから大丈夫。と、そういうことだろうな。
そうやってその場しのぎの嘘をつくような中二病設定なら、兄としては見過ごせない──。
とはいえ、今追い出したらこの女は野宿するに違いない。……まあ、今日くらいならいいのかな。
中二病設定が悪い方向へと走り出していると思うも、目の前の女、れおな・る・なんちゃらーの抱える家庭事情を考えると、そうとも言い切れず、俺は対応に悩んでしまった。
そうして、中二病設定はとんでもない方向へと加速していく──。
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