第15話 目が覚めると、そこに見えたのはおパ◯ツでした(上)


 〝パシャッ〟


「んぅ……」


 ……耳障りな音がする。眠たいのに。


 〝パシャッ〟〝パシャッ〟


 う、うるさいな。

 シャッターの切れる音。すごい耳障りだ。


 あ……れ? 僕は確か……体育館で練習をしていたはず。


「……っ!!」


 目を開くと見覚えのある天井、カーテン。

 ここが保健室のベッドだとすぐにわかった。


 記憶は曖昧だけど、ここは寝るための場所。もうひと眠り────。


 〝パシャッ〟


 ほんとうるさいな、この音。


 睡眠を妨げる耳障りな音がするほうに首を向けると、白衣が見えた。


 保険の先生……ではない。白衣の下は見慣れたうちの学校の制服だった。


 顔は……スマホで隠れて見えない。どうやら自撮り中らしい。パシャパシャうるさいのはこれのせいか。傍迷惑な。


 さらに首を横に、枕に右耳が埋まるようにすると、丈の短いスカート。膝、太ももが見えた。


 誰だろう。顔さえ見えれば……。


 考えることよりも、眠い。けど、シャッター音が耳障りで二度寝を妨げる。



 〝パシャッ〟〝パシャッ〟


 太ももの奥が見えそうで見えない。

 あと、もう少しで見える。


 …………でも、見えない。


 寝ぼけまなこで、”見えそうで見えない”この狭間をボーッと夢見心地な曖昧さの中、眺める。



 〝パシャッ〟


「うんっ、これにしよー」


 どうやら自撮りは終わったらしい。それに伴って脚が少し開く。


 椅子に座る太ももの先に一閃の光。……それは眩い水玉模様。


 別に見たかったわけではないが、胸のつかえが取れたような夢見心地。そっか。水玉だったか。


 安堵と共にパシャパシャ音も止み、おやすみモードに突入。


「あー、わたしってほんと可愛いなぁ〜」


 ドクンッ。夢……じゃない?


 胸元からスーッと寒気が走るような悍ましさ。

 聞き覚えのある声とセリフ。


 〝ブォォォン〟


 僕は超高速で首を180度動かした。枕に埋まっていた右耳は一瞬で左耳に変わる。


 見てない。僕は何も見てない。


「ん? あー、もしかして起こしちゃった?」

「いえ、水玉模様とか知りませんので」


「は?」


 殆ど反射的だった。たぶん、頭の中が水玉模様になっていたんだ。


 白衣に身を包み、椅子に座っていたのはまどか先輩だった。どうしてここにこの女が。それよりも僕はどうしてここに。


 ……そんな事よりも水玉模様を誤魔化さなければ‼︎



「あっ、寝ぼけてるのかなぁ僕……あははぁ」


 目をゴシゴシしながらゆっくり振り向き、寝惚け眼をアピール。


 まどか先輩は少し不思議そうな顔をすると「水玉……」と小さな声を溢し、第二ボタンまで開いたワイシャツの掛け目を指で摘み覗き込んだ。


「ああね。へ〜、なつくん興味ないと思ってたけど、ようやくわたしの魅力に気付いちゃった感じぃ?」


「あの、何を言ってるのか、わ、わか、わかりません……」

「えー、見たんでしょぉ? み・ず・た・ま・も・よ・う?」


 首を傾げ「うん?」と、挑発するように聞いてきた。

 

 完全にバレてる。万事休す……。

 

「はい。すみません。起きたら視界に入ってしまって。決して見ようとした訳じゃないんです。それだけは信じて下さい……」


「あー、いいよいいよ。そんな風に言われると逆に申し訳なくなっちゃう。こんなの見せてるようなもんだからさ、気にしないでー」


 ななな、なんだと?!

 見せ……てる?!


「減るもんじゃないしさぁ、見たかったら、ね? どーせみんな見てるだろうし」


 なにいってんだこの人。と、とんでもないぞ。

 パンツを見せびらかせて生きているとでも言うのか。

 

 そんなわけあるか!! 

 これ、きっと、会話が噛み合ってないやつ!!


「その代わり、わたしと池照くんの事、応援してよ。てゆーかね、はっきり言っちゃうとぉ、なつくんが邪魔なの!」


 ある……のか?

 パンツを生贄に恋路を応援しろと。



 ……それよりも、まどか先輩にとってパンツとはそんなにも容易い物なのか。


 なんだろう。この胸のざわめきは。



 会話にズレを感じながらも、止ん事なきおパンツ事情を抱える僕は、何かを期待せずにはいられなかった。



 ──まどか先輩……おパンツってなんですか? 見せびらかせても大丈夫なものですか?

 

 頭の中で無数に広がるおパンツクエスチョンを、抑えることができなかった。

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