第78話 最悪の場合
「……落ち着いた所で聞きたいんだけど、さっきアルラギア帝国の名前が出た時、様子がおかしくなっていたのはどうしてなんだ?」
別に
……まあ、メンタルが完全崩壊している麗翠とこのまま、本当に捨てない? とかのやり取りをずっとやっていると、俺までメンタルがおかしくなりそうなので、話題を変えたいという思惑がほんの少しあるのは認めよう。
しかし、アルラギア帝国については、もっと知っておいたほうがいい。
セトロベイーナ王国の人間から聞いた情報だけじゃ足りなそうだし、その情報だけで簡単に勝てる相手ってわけでも無さそうなので、単純に麗翠が知っていることも聞いておきたいという目的がちゃんとあってこの話題に変えただけだ。
決して、豆腐メンタルで相変わらず面倒臭い女だなあとか思っているわけではない。
なんならこの話題を切り出すまで、麗翠が泣き止んでからも一時間以上慰めたんだぞ。
もう十分だろ……流石に……。
「……うん、実はね……」
良かった……麗翠が普通に話せている。
どうやら俺の一時間以上に及ぶメンタルケアのおかげでなんとか安定してきたようだな。
まあ俺、この一時間、絶対に捨てない! とずっとそばにいるから……ぐらいしか言ってないんですけどね?
「…………」
「ん? どうした? ちゃんと聞いてるぞ? 話を続けてくれ」
「ねえ……
「!?」
おいおい。
アルラギア帝国についての話を聞きたかったのにどうしてそうなるんだ。
その口振りだと麗蒼も敵かもしれないのか?
「……驚いたよね。でも、可能性はあるよ。麗蒼達のいるロールクワイフ共和国は、アルラギア帝国の従属国になったみたいだから」
「……は? 本当かよ?」
おいおい……ロールクワイフって国は何を考えているんだ?
従属国ってことは、アルラギア帝国の傘下に入ったようなもんじゃねえか。
……ってか、その前によ……。
「……麗蒼のどこが優秀なんだよ。こんなこと言いたくないけど、
「……え? そうなの? 周辺国からは国民を誰一人も死なせなかった賢明な勇者だって評価されてたみたいだけど……」
……その評価している周辺国ってのも、実はアルラギア帝国の従属国だったから称賛していたってパターンじゃねえのかそれ。
どう考えても悪手なんですけど。
後、嫌なことにも一つ気付いたぞ。
「……その話が本当で麗蒼が敵だった場合、俺達は岸田と麗蒼の
「…………勝てる?」
「うーん……麗翠の
「ええっ……女神の緑……次第……? で、でも
そのサポート役がいないし、サポート役にもなれないのが俺の弱点だからな。
麗翠はその弱点を補ってくれる。
……これは幸なのか不幸なのか、元クラスメイトの連中で回復系の女神の加護を持った奴が誰一人として死んでいないので、回復魔法が使えない。
じゃあ適当にこっちの世界の人間を仲間にすれば良いんじゃないのか。
そう考えたこともあった。
しかし、果たして女神の剣や女神の加護の力で負った傷を、こっちの世界の人間の魔法で回復出来るのか?
……答えは恐らく出来ないだ。
こっちの世界の人間は女神の加護を持った人間を殺すことは出来ない。
だったら加護の力で負った傷も回復出来るわけがない。
サンドラさんやメリサさん。
そしてリベッネとパーティーメンバーとして組むなんてことをしなかったのもそういうわけだ。
「……俺にとって一番怖いのは、岸田でも麗蒼でもない。
「じゃあ私が五十嵐さんの攻撃から仁を女神の緑で守って、仁が負傷しても私がちゃんと回復させられれば……勝てるってこと?」
「もし他にも五十嵐みたいなチート加護を持っている人間がいなければ……勝てるかもな。麗蒼のパーティーメンバーがどんな加護を持っているか分からないし、そもそも麗蒼のパーティーメンバーが誰なのか知らないから断言は出来ないけど」
八対二か。
これはあくまで、岸田達と麗蒼達が一緒に行動していた場合の話だが。
まあ、最悪の場合は想定しておいた方がいい。
……現にセトロベイーナ王国では、想定していた最悪のケース以上のことが起きてしまったわけだからな。
……俺がもっとしっかりしていれば、兵士達は……リベッネは……死ななかった。
もう、あんな思いはしたくないし、あんな光景は見たくない。
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