第37話 勇者ケントは知らなくても大丈夫な存在です
「まあまあ、サンドラさん。メリサさんも落ち着いて下さい。別に俺はヴェルディアを倒さないと言っている訳じゃありませんよ? ただ、ボルチオール王国とは距離を置きたいという話です」
俺も言い方が悪かった。
ボルチオール王国を見捨てるかのような(見捨てるのは決めてる)発言をしたら、ヴェルディアを倒して貰えないの!? と勘違いされてもしょうがない。
……自分達だけでヴェルディア討伐をするぞというやる気を少しは見せて欲しいが。
「その言葉を聞けて安心したけど……う、う~ん……きょ、距離を置きたいか……」
「何だか見捨てられた感じがしますね」
うっ、鋭いな。
結構遠回しに言ったつもりなんだけど。
……仕方ない、話すつもりは無かったけど話すか。
そうでもしないと、サンドラさんとメリサさんが懇願し続けてきて、話が進む気がしない。
それにこの話は、セトロベイーナの女王様にも聞いて貰いたい。
大関の
「距離を置きたいと言ったのは、少し期間が欲しかったからですよ。ヴェルディアを確実に倒したいですし。準備なんかし過ぎるぐらいが丁度良いですよ。フィスフェレムが魔王軍七幹部の中で恐らく七番目、それに対してヴェルディアは三番目なんですから」
「え!?」
「さ、三番目!? 勇者ケントは、ヴェルディアが七幹部の中では一番弱いって言ってましたよ!? 話が違います!」
俺の言葉に、サンドラさんとメリサさんだけでなく、セトロベイーナの女王様も、護衛の騎士やリベッネも驚いている。
当たり前だけど、セトロベイーナ側の人間は驚くよな。
セトロベイーナ王国の勇者パーティーを壊滅状態にしたフィスフェレムが七幹部の中じゃ恐らく最弱なんだから。
イーリスが、最初に君が倒すべき幹部はフィスフェレムだよ! って言ってたし。
つーか、ケントのやつ……自分の強さだけじゃなくヴェルディアの強さにまで、ボルチオールの人間に嘘を言っていたのか……。
最弱なのは、お前だろうが。
全部バラしてやる。
「女神イーリスが、俺に
「本当なんなの!? あのバカ勇者! ずっと私達を騙していたの!?」
「戻ったらすぐに報告すべきです! これは許される事ではありません!」
ラッキー。
思った通りだ。
この話をすれば、矛先が絶対ケントに向くと思ったよ。
「あ、あの……さっきから勇者ケントって言ってますが、一体誰なのでしょうか?」
「それ、アタシも気になってました。勇者様とは別に、勇者がもう一人ボルチオールにはいるんですか?」
女王様とリベッネが不思議そうにケントの事を聞いてくる。
あっ、そうか。
親書を渡す為に、俺達がボルチオール王国の勇者パーティーだって言った嘘が伝わっていたんだった。
「説明すると長いので、気にしなくて良いですよ? ねえ?」
「ジンくんの言う通り!」
「ええ、知る価値も無いので無視して頂いて構いません」
「そ……そうですか」
話が長くなるから、説明するのが面倒臭いのもあるが、ケントが率いるボルチオール王国の本物の
だから、セトロベイーナの皆さんには申し訳ないけど、説明を省かせて頂きます。
「とりあえず、ボルチオール王国の話はここまでにして。大関……じゃなかったオーゼキ達を壊滅状態にしたフィスフェレムの事を俺は聞きたいんですよ。後、オーゼキの女神の剣の色も聞きたいです。勿論、お返しはフィスフェレムの討伐でどうでしょう?」
俺が持つ情報をこの場で話したのは、誤魔化す為だけではなく、セトロベイーナ側から情報を貰う為、そしてフィスフェレムの討伐を任せて貰う為でもある。
女王様は少し考えて、騎士達やリベッネに目配せをする。
恐らく、俺達に今のセトロベイーナ王国の状況を話して良いか目で合図をしたのだろう。
そして、全員が頷いた。
「正直、信じられません。フィスフェレムが魔王軍七幹部の中で最弱だなんて……。勇者パーティーだけではなく、セトロベイーナ軍、そしてこの国の東側も……うっ、ううっ……フィスフェレムの力によって、壊滅状態なんです」
女王様は、フィスフェレムが魔王軍七幹部の中で最弱で、そのフィスフェレムに国すらも壊滅状態にさせられたという現実を受け入れられなかったのか、泣き出してしまった。
……間違いありませんとか言ったけど、あくまで
ヴェルディアの強さに関しては、俺がイーリスを殺す寸前の時に、命乞いのように必死に訴えかけていたから、多分正確な情報なんだろうけど。
……多分、な。
それにしても、大関達だけじゃなくてセトロベイーナ軍、そしてセトロベイーナの東側が壊滅状態ってどういう事だよ。
そんな話聞いて無いぞ?
……なあ、イーリス?
マジでフィスフェレムが俺が一番最初に倒すべき幹部なのか?
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