第29話 もしかしたら見捨てちゃうかも
「あれが関所ですか」
「ええ、あの鎧の色はセトロベイーナの兵士達が着ている鎧と一緒なので恐らくそうだと思います」
物凄く大きい門、そして手続きをしたり、兵士達の休憩所になったりすると思われる小さな宿みたいな建物。
更にそこには紺色……? いや、藍色か?
ハッキリ分からないが青系統の鎧を装備した兵士達がいた。
ボルチオール王国の兵士達が装備している鎧は紫色だったので、俺達の行っている道が間違っていなければ、関所の近くにいるのはセトロベイーナの兵士達なのだろう。
「お、おい! ダメだダメだ! 今はセトロベイーナに入国禁止だ! というか、どこからここまでやって来たんだ!」
俺達に気付いた兵士の一人が、怒りながら駆け寄って来る。
セトロベイーナに入国禁止?
そんな事、王様は何も言ってなかったぞ?
親書を渡すように頼まれた時も、何も言われなかったので俺とサンドラさんは顔を見合わせる。
話を聞いていなかったという事もない。
間違いなく、聞かされていないだけだ。
「セトロベイーナに入国禁止? 何かあったの?」
「何かあったどころじゃない! 我らセトロベイーナの勇者パーティーが壊滅状態になったのを知らないのか!?」
「「!?」」
兵士の言葉に、メリサさんとサンドラさんはかなり驚いた。
俺が驚かなかったのは、勇者パーティーじゃ分からなかったから。
「それは、女神に選ばれた勇者パーティーですか?」
もしかしたら、この世界に元々いた勇者のパーティーかもしれん。
俺は兵士にイーリスが選んだ連中、即ち俺の元クラスメイトかを確認する。
だが、返答は無かった。
「おい、喋りすぎだ。ペラペラと国の内情を無闇やたらに喋るな」
「す、すいません! 隊長!」
駆け寄ってきた兵士よりも、体格も立場も上の隊長と呼ばれた兵士がやってくる。
目には、兵士の勲章と言うべきか、大きな傷跡があった。
「……ボルチオールの人間か。悪い事は言わん。さっさと国に帰るんだな」
サンドラさんが装備していた紫の鎧を見て、俺達がボルチオール王国からやって来た人間と察したのか、隊長と呼ばれる兵士はボルチオール王国へ帰るよう勧めてくる。
「悪いけど、こっちも王様から命令されているんだよね。セトロベイーナの女王様に親書を渡せって」
「親書? ……フッ、笑わせる。我々の協力要請を無視したのはボルチオールだというのに、親書とはな! お前らの王に伝えておけ! 我々が望むのはボルチオールの勇者パーティーの協力だとな!」
「……」
サンドラさんは滅茶苦茶困った顔で何も言えなくなった。
だって、ボルチオール王国の勇者パーティーって、
あんな役にも立たない上にやる気もない連中、セトロベイーナに派遣してみろ。
それこそ、セトロベイーナの女王から逆にブチギレられるわ!
「メリサさん、サンドラさんちょっと……」
「何?」
「何でしょう?」
「少し、口裏を合わせて貰えますか?」
二、三分ほど兵士達に聞かれないようにこそこそと相談する。
そして、今度は俺が前に出て、ボルチオール王国の王様にお冠の隊長様と話をする。
「丁度良かった。実は、俺達がボルチオール王国の勇者パーティーなんですよ」
はい、こそこそ相談して決めました。
俺達がボルチオール王国の勇者パーティーでした作戦です。
だって、ボルチオール王国の勇者パーティーが
しかも、四人のうち二人が戦力にならない上に、異世界の人間と意思疎通が出来ない状態で派遣なんか出来ないし……。
まあ、ケントとサラの女神の加護を奪った俺のせいなんですけどね?
「お前、ふざけてるのか? 口裏を合わせて騙そうたってそ……う……は?」
「
「察しがよろしいようで、助かります」
良かったー。
セトロベイーナの兵士がカムデンメリーの兵士みたいにバカじゃなくて。
見せただけで察してくれたよ。
「……だ、だが! 勇者パーティーは四人のはず! 何故、三人しか!」
「え? バカですか? 俺達全員がボルチオール王国を離れたら、ヴェルディアにボルチオール王国が襲われるんですけど? ねえ?」
「そ、そうだねー。女神の加護を持つ勇者パーティーが、四人全員いなくなるなんて事はありえないよねー」
「ボルチオール王国の街、ファウンテンの近くに魔王軍七幹部のヴェルディアの城があるのに、そんな事をしたらファウンテンが滅ぼされます」
三人しかいないことを突っ込まれると思っていたので、しっかりと口裏を合わせて言い返す。
だけど、サンドラさん……演技下手……。
棒読みが過ぎる……。
後、ケント達ってやっぱバカだよな。
応援を待つとか以前の問題に、四人の内一人で良いからファウンテンに残しておけば、忌避の力が発動して、あんな大惨事が起きる事を防げたのに。
「隊長……この人達の言っている事は間違いありません。魔王軍七幹部の根城がある場所から一番近い街に女神の加護を持った勇者パーティーの人間を必ず一人常在させるのは、定石です」
「存在しているだけで魔王軍の進軍を防ぐ女神の加護の事か。だから、ほぼ死んだも同然の勇者を必死に延命させているんだったな」
「それにあれは間違いなく、女神の剣です。ならば、大急ぎで女王の元へご案内した方が良いのでは?」
「もっと早く協力しろとも言ってやりたいところだが……そんな場合ではないな。フィスフェレムの屋敷から勇者パーティー三人が帰って来なかったのだから」
兵士が相談している内容を聞いて、俺は少し引っ掛かった事があった。
おいおい、セトロベイーナにはフィスフェレムがいんのかよ。
魔王軍の幹部じゃねえか。
イーリスから一番最初に倒すのはフィスフェレムがオススメだよ! って聞かされたから知っているぞ?
それは、まあ置いといて。
協力を要請されていたって事は、王様はフィスフェレムがセトロベイーナにいる事を知っていたはずだし、セトロベイーナの勇者パーティーが壊滅状態になった事も知っているはず。
俺とサンドラさんに敢えて何も伝えず、セトロベイーナに向かわせるなんて一体何を考えているんだ?
「よし、お前らのセトロベイーナへの入国を認めよう。付いて来い」
「あー良かった! 親書を渡せない所だったよ!」
「今更、引き返すのは嫌ですからね」
とりあえず、この隊長様に着いて行って、手続きを済ませて、セトロベイーナの女王様の元へと行くか。
……現実味を帯びて来たな。
俺がボルチオール王国を見捨てるかもしれないという事が。
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