第20話 元の世界でバカだった奴は、やっぱり異世界でもバカ

 ケント達勇者パーティーのファウンテンでの重大なミスを敢えて大勢のギャラリーの前で言った事は正解だったようだ。


 ギャラリーは騒ぎだし、ケントやサラに対する怒声混じりの追及の声がチラホラ聞こえてくる。


 そして、ギャラリーから聞こえてくるのは怒声混じりの追及の声だけではない。


 困惑の声、そしてファウンテンが壊滅状態という事に泣き出す人達の声も少なからずあった。

 恐らく、ファウンテンに家があったり、家族や親戚がいる人達だろう。


 自分がカムデンメリーに行ってる間に、家が壊されているか、もしくは家族や親戚、知り合いが殺されているかもしれないって話を聞けば泣きたくなるのは分かるが。


「黙ってないで、何か言ったらどうなんだよ! 少なくとも俺が確認した限りで百人以上の人間が死んでいるんだ!」


 ケント達へ怒りの炎を燃やすギャラリー達へもっと燃えろと言わんばかりに新たな油を注ぐ。

 具体的な死者の数を言うことでいかにケント達がやったミスが重大なのかということを知らしめる。


 効果覿面だな。

 そんな訳無いだろ! とかケント達を擁護する声もあったのに、具体的な死者数を出された事で、ケント達を擁護する声は全くと言って良い程無くなった。


 さあ、ケント。

 そして、サラ。

 お前らは今回のミスについてどう説明し、どう責任を取るんだ?


 もう逃げられないぞ。


「……そ、そんなミスをアタシ達がする訳無いです! み、皆さん! あんな奴の言葉なんか信じないで下さい!」


 口を開いたのはサラだった。

 ……まさか、第一声が謝罪やミスを認める言葉じゃなく、そんな事あるわけが無いって否定とはな。


 だが、一方のケントは自覚があったのだろうか、何も言うことなく顔を青くしている。

 サラは無視して、ケントに追及するとしよう。


「おい、ケント。俺は勇者パーティーのリーダーで、勇者であるお前の口から聞きたいんだよ。何故、他の街やカムデンメリーからの応援が着く前に、ファウンテンを離れた?」

「そ、それは……」

「アタシ達は王様に呼ばれていたの! 王様を待たせる訳にはいかないでしょ! だから、早めにファウンテンを出ただけ!」

「お、おい……サラ」

「……」


 口を挟んで余計な事を言ったサラに、ケントは頭を抱えた。

 俺は、ドン引きしていたが。


 何故、ケント達が約束を破ったのかが分かったと同時に、一つ思い出した事があった。

 二年も異世界にいたから忘れていたよ。


 ああ……そうだった。

 オカッパサラって度を超えたバカだったな。

 テストでも赤点取りまくりの補習常連組だったし。

 自供してるようなもんだぞ。


 王様に呼ばれたから、早めにファウンテンを離れただけ! じゃねえよ。


 バカだから話が理解できなかったのかな?

 女神の加護を持つお前らが早めにファウンテンを離れたから、ヴェルディアの部下にファウンテンが襲われて壊滅状態になり、多くの人が死んだと。


 やっぱ変わらないんだな。

 元の世界でバカな奴は、異世界でもバカなんだわ。

 イーリスも女神の加護で、サラの頭を良くしてやれば良かったのに。


 あ、違うか。

 女神の加護を受けて、このザマなのか。


 もういいや。

 良いよな?

 聞こえているだろ?

 お前の懸念通り、そして俺の忠告通りになったな。


 再確認したよ。

 ケント達じゃ、ヴェルディアを倒せないって。

 そして、ヴェルディアを始めとした魔王軍七幹部を全て倒し、魔王を討伐してこの世界を救うということは無理だ。


 ……そもそも魔王討伐に関してはコイツらやる気無かったな。


「もう何も言わなくていいや。全部分かったから。これから俺がやるべき事を含めてな」


 ケントとサラにそう伝え、俺は女神の黒イーリス・ブラックを抜いて、剣の切先を二人に向ける。


 ケント達は勿論だが、ギャラリーもそんな俺を見て困惑しだす。

 それもそうだろう。

 端から見れば、ケント達を殺そうとしているとしか思えないし、そうとしか見えないだろうからな。


「ダメです! ジンさん! 彼らをここで殺せば、罪人となるのはジンさんです!」


 後ろで見守ってくれていたメリサさんも流石に狼狽えながら、俺の元へと来る。


「大丈夫ですよ、メリサさん。殺しはしません。ただ、んです」


 心配するメリサさんに一言そう告げて、ケント達に女神の黒の切先を向け直す。

 ケント達は、抵抗もしないし逃げようともしない。


 流石にそこまでバカじゃなかったか。

 抵抗したり逃げたりすれば、全てが終わると分かっているから、何もしないんだ。


 安心しろ。

 すぐ俺が終わらせてやるから。


女神の黒イーリス・ブラック。そこのバカ二人から忌避の力以外の女神の加護を全て奪え」

「お、おい! ジン! 何をする気だ!」

「辞めて、上野! アタシ達が何をしたって言うの!?」


 騒ぎ出すケントとサラ。

 何をする気だとか辞めろとか以前にもう終わったから。

 後は自分の目で確認しろ。


 俺は騒ぐ二人を無視して女神の黒を鞘に収める。

 ギャラリーもさっきまで以上に騒ぎ出したが、無視だ。


「ジ、ジンさん? 一体何を……」


 メリサさんも、怯えながら俺が一体何をやったのか聞いてくる。


 そりゃそうだ。

 さっきまで凄そうな装備をしていたケントとサラが、一瞬にして下着姿だけというあられもない姿になったのだから。

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