第14話 虹の教団

「なるほど……性能の良い防具が欲しいと。分かりました。メリサ、ジンさんをお願い出来るかしら?」

「かしこまりました。ロジャース街長がいちょう


 ロジャース邸に戻り、アイドラさんに王都へ行きたいと伝える頃にはもう夜になっていた。


 しかし、こっちの世界では街長って言うのか。

 街のトップの事を。

 元の世界、所謂俺がいた日本では町の長で町長ちょうちょうって言うのが普通だから違和感を感じるな。


 そもそも日本は一つの街ごとに長を置いてる訳じゃないけど。

 まあ、ボルチオール王国と日本じゃ国の大きさが違けりゃ、人口も文化も違う。

 異国の地、ましてや異世界で、元の世界の一国に過ぎない日本の価値観と合わせて、違和感を感じるなあ……なんて思うのはナンセンスか。


「あ、そうそう。ついでといっては失礼かもしれないけど、ジンさんを王様に紹介しましょう。ファウンテンを救った英雄でボルチオール王国の新しい勇者候補ですから」

「それは良い考えかもしれませんね。そうすれば勇者ケント達のサポートをスムーズに打ち切れますし」


 ……おい。

 俺はただ王都に防具を買いに行きたいだけだぞ。

 何でわざわざ俺を王様に紹介なんて事をしようとしているんだ……。


 それはお断りだ。と言おうとした時だった。

 メリサさんが、気持ちは分かるがまあ話を聞けといった感じで俺を制する。


「そうでもしないと、我々は……いえ……ボルチオール王国は勇者ケントを始めとした勇者パーティーのサポートを打ち切る事が出来ないんですよ」

「そうね……女神が選んだ勇者パーティーへのサポートを打ち切るなんて事をすれば、この世界の女神イーリスを崇拝する巨大宗教団体、虹の教団が黙っていないでしょうね」

「虹の教団?」


 いや本当に何だよ、虹の教団って。

 名前を聞くだけでヤバそうな連中じゃねーか。

 思わず鳥肌が立ったぞ。


「ジンさん。我々だって、この二年間何もしない勇者ケント達をチヤホヤし続けたかった訳ではありません。ただ、そうせざるを得なかった。と言った方が正しいです」

「……そうせざるを得なかったのは、虹の教団って連中がいたから……だと?」


 俺はその連中の恐ろしさを知らないから、ケント達役立たずをチヤホヤしてたのってそのせい? って軽く聞いてしまった。


「……」

「……」


 メリサさんもアイドラさんも俺の質問には答えず、無言で周囲の確認をする。

 そして、自分達以外が誰も聞いていないと再確認した所でメリサさんが口を開いた。


「ジンさん。虹の教団の悪口を言うのは辞めた方がよろしいかと。言うにしても、もっと小声でお願いします」

「別に悪口なんて……」


 メリサさんもアイドラさんも様子がおかしい。

 そんなに虹の教団ってのはヤバい連中なのか?


 そもそも、あの勇者パーティー役立たず達の無能さに気付いていたのなら、いつでもサポートは打ち切れたはず。

 でも、それをしなかった。

 そうせざるを得なかったからってメリサさんは言った。


 つまり、虹の教団とかいう巨大宗教団体が原因とは言わないが、何の功績もないケント達へのサポートを打ち切るのを躊躇する理由の一つであることは間違いないって事だろ。


 すると、露骨に俺が虹の教団に対して怪しげに思っていると察したのか、アイドラさんが説明をする。


「虹の教団は、ボルチオール王国だけではなく、他の国にも信者が沢山いるんです。具体的な信者数は分かりませんが、恐らく数百万人は下らないかと。そして、困った事に虹の教団の教祖は、ボルチオール王国の王妃なんです」

「……」


 俺の想像以上に闇が深くて、思わず何も言えなくなる。

 何で新興宗教なのに、数百万人も信者を獲得してるんだよ。

 そんでもって、この国の王妃が教祖って……。


「お分かり頂けましたか?」

「知りたくなかったですけどね。数百万人もの信者、そしてこの国の王妃が教祖ですか、そりゃ敵に回したくない訳ですね」

「虹の教団の人達にとって、この世界の女神である、虹の女神イーリスの決定は絶対です。ジンさんも気を付けてください。この街の人間は見る目がないって仰っていた時もわたしはヒヤヒヤしていました」


 本当に良かったよ。

 サンドラさん様々じゃねーか。

 もし仮に、昨日話していた内容が漏れていたら、虹の教団が俺の敵に回っていたのは間違いなかったな。


 イーリスあのバカのミスに対しての愚痴と女神が選んだ勇者パーティー役立たず達がいかに無能かを語っていた訳だからな。


 ……というか、益々俺がイーリスを殺した事は話せないな。

 そんな事をうっかり言おうもんなら、数百万人の信者達が俺の命を狙いに来るだろう。


「はあ……、それなら仕方ないですね」

「ケルベロスを倒し、ファウンテンをヴェブナックが率いるサタン軍団から守ったのですから、大丈夫ですよ」

「そうです、しかも女神の剣イーリス・ブレイドを持っているのてすから、王も虹の教団もジンさんを無下には出来ないはずです」


 ……気が進まないが、中途半端な防具でヴェルディアを討伐出来るとは限らないからな。

 王都に行って、王の元へと行くか。


「覚悟は決まったようですね。よろしくお願いします。メリサは王都までの道中、そして王都の案内と王様へジンさんの紹介をよろしく頼むわ」

「分かりました。ジンさん、明日からよろしくお願いします」

「ケント達が今王都にいるらしいから気が進まないけど……仕方ないか」


 性能の良い防具を買うだけのはずがどうしてこうなった?

 と思いつつ、黙って引き受ける。

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