家老、斬っちゃったみたいなんですけどどうしたらいいんでしょうか

松田ゆさく

第1話 家老、斬っちゃったかも

しとしと雨が降っていた。遠くで、雷が落ちる音が聞こえた。


「もう一度言ってみろ!!」


老人の怒声を正面から浴びる。今にも部屋の畳がひっくり返そうなほどの大声だ。


「妹は輿入れさせることはできません。お断りします。」


細い体の黒髪の青年は正座のまま、きっぱりと言い放った。

もっと言い方があっただろうに、目の前の老人は今にも爆発しそうなほど赤い顔をしている。


「おぬしにその権限があると思うてか!ええい!無礼打ちにしてくれるわ!」


烈火のごとく怒り狂った老人はすくっと立ち上がると、己の座していた背後にある刀を素早く抜き放ち構えた。


--そのときである


カッと世界が真っ白に染まり、目の前が見えなくなる。おそらく雷が近くに落ちたのだろう。

二人がいた部屋は暗闇に包まれた。


「ぐあああああああああああああああああ!」


断末魔といえばこのことだろう。ものの数秒で灯りが回復する。


そこにはさっきまで激高していた老人の血まみれ遺体が転がっていた。


そう、この老人が青年の仕える国の偉い人No2、ご家老。武田観法意匠益~タケダカンポウイショウヤク~その人である。




=3か月後=




「はーい、いらっしゃい!お客さま3名さまご案内で~す!」


栗色の髪と現代風メイド服をはためかせ、今日も元気なすずめちゃんが旅籠の食堂に飲みに来た客をご案内する。


「すずめちゃん、今日も可愛いね!」

「ありがとうございま~す!」


客のあしらい方も上手いものである。


「ご注文は何になさいますか?早く決めてください。」


紺色の髪と同じくメイド服を着たつばめちゃんが客の注文を取る。

冷たいというか、ぶっきらぼうな態度である。


「つばめちゃん、今日も可愛いね?」

「はい、どーも」


目が笑っていないのである。


「あの、ご注文の麻婆豆腐お待たせしました。」


音もなく現れ金髪のメイド服を着たするめちゃんが料理を運ぶ。

料理を持ってきたのにお客は気づいてもいない。


「わあ!料理がいつのまにかテーブルに!!」

「ごめんなさい!」


影が薄い。


この旅籠「ほてる・・まんはったん」の名物三人娘である。


「勘十郎さま、ご注文は何になさいますか?私?それとも私?それともごはん?」

「勘十郎さま、私と死んでください。」

「・・・さま、、、だい・・・」


三者三様のアピール(一名声が聞こえてこない)が向けられるのは、座敷のもっとも奥にいる、勘十郎と呼ばれた黒髪の青年である。


家老暗殺事件(仮)から3か月。彼は疑いをかけられ、這う這うの体で国を抜け出し、江戸に潜伏していた。

この旅籠には、かれこれ1か月も長居している。彼が食事中にすずめを助けたのが始まりで、今では旅籠の用心棒として働いていた。


「あのときの勘十郎さま、かっこよかったのよぉ!」

「またそれ。もう何回目よ。聞き飽きたわ。」

「か弱いすずめが悪漢三人に言い寄られているとき、颯爽と現れた勘十郎さまが三人をぎったんぎったんのボッコンボッコンにしてくれたの。超カッコよかったわ!」

「実際は、、、穏便に帰ってもらってました。」

「え、するめちゃん見てたの?」

「一緒に、、、居た。。。ので」


「あのときは私も緊張しました。4人の中から殺気を感じたので、今すぐ止めなくてはと思い、つい口を出してしまいました。」


実は殺気を出していたのはすずめのほうで、勘十郎が声をかけていなければ三人の男たちに命は無かっただろう。助けられたのはむしろ三人のほうである。


「細かいことはいいのよ!勘十郎さまの剣の腕は確かなものだったし、女ばっかりのまんはったんには男手は貴重だし。いてくれて助かってるわ!」

「過分なお褒めにあずかり光栄です。私のような素性も知れぬものを宿に置いていただいてるだけでありがたいのに。」

「問題ない。とても楽しい。」

「わた・・・私もです!」


「ほらほらアンタたち!サボってるんじゃないよ!仕事しな!」

「いけない!ババぁ…女将にバレた!じゃあね、勘十郎さま、また夜に!」

「言い直しても聞こえてるよ!ババぁだ!?あたしゃまだ38だよ!」


三人娘はまるで嵐のように去っていった。


勘十郎の住む国、「久利呉藩~くりごはん~」はこの日の本の東北に位置する国だ。

今いる江戸からかなり離れているとはいえ、いつ追っ手がくるかわからない状態で長居していていいのか迷っている。

だが、女将をはじめ旅籠の面々への恩と居心地のよさが、彼を旅立たせる気にさせなかった。


「ここにいたら迷惑がかかるだろう、、、」


わかっていて離れられないでいる。


「勝手にどっかいくなんて考えんじゃないよ。アンタは用心棒なんだからね。」


女将に事情を話した際、かけられた言葉だ。

なんて度量の大きい人なんだろうと勘十郎は涙をこらえられなかった。


今日の仕事を終え、あてがわれている寝室に戻ると、すぐに眠気がやってきた。



深夜…丑の刻…だいたいAM2:00くらい、、、


「う~らあ~め~し~や~」


彼の耳に声が聞こえてきた



つづく
















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