第17話 昼の月

 アンクトンにキュラたちが転移して、3か月半程の月日が経っていた。


 


 真昼間、メタリカーナ邸内で物が壊れる音とうめき声が上がる。


 同刻、悪寒を感じたジョヴァンナが書斎から広間に行くと、メイドが振り返る。だが、そのメイドには首から上がなかった。

 右腕にツナツルを抱え、左腕に自身の綺麗な笑顔の生首を安置させたバスケットを提げたまま佇む。

 周囲に配下の使用人達が倒れている。



「デュラハンが何している。」


「あら、ごめんなさい。少々騒がしくしてしまい申し訳ございませんでした。

 あなたには気付かれたくなかったのですが…。できましたら、見なかったことに…!」


 ジョヴァンナがいきなり「火球ファイアボール」を放った。


 首無しメイドは大きく跳躍し避けると、気絶しているツナツルを多少焦げた床に落ろす。

 抱えるのは生首を優先するようだ。当然か。


「危ないじゃないですか!

 火事になったらどうするんですか。この子もいるんですよ。」


「「前知」できるってのも嘘じゃないようね。ウチは火耐性が高いのよ。

 ほら、教えてあげたんだから、アンタも何でその子を狙うのか教えなさい。」


 ジョヴァンナは迫力ある眼圧プレッシャーをかけながら屋敷の防火性能を誇る。


「ううっぅ…。この子は『鍵』なんです…。

 …止むを得ないですね。死んで下さいませ。」


 辛そうにぽろりと白状する。


 首無しメイドは、見たことのない巨大で異様な形をした鎌?を取り出すとジョヴァンナに躍り掛かる。それは直径2mを超える円月輪チャクラムのようなC形をした武器で刃は影のように黒く、円内側につっかい棒状の柄がついている。


「貴様、『ノイモント・テーテンズィー』…。」


 トロル・ウィッチは斬撃を避けながら、伝説的な強力なデュラハンの名を呟いた。


 ノイモントが巨大円月鎌を振り回し続けるほぼ一方的な展開になる。

 

 ジョヴァンナは首無しメイドの攻撃をひたすら精神を削りながら、致命傷だけは僅かに躱し続け、傷を負いながらもたまに懸命につかみかかっている。


 いずれはデュラハンの鎌の餌食になるだろう。


 

 やがて、偶々たまたま床を砕いた僅かな破粉が、左腕に提げるバスケットの顔の丁度ちょうど目に入る。何度も躱し続けた巨大な円月鎌が偶然ぐうぜん柱に刺さる。いつの間にか斬撃が少しだけ雑になっていた。


 トロルは傷は負えど特殊能力で即座に回復する。

 瞬間、そのまま「燃える手バーニングハンド」で頭の入ったバスケットを無茶苦茶につかむ。


「ちょ!」


 態勢を崩すノイモント。

 ジョヴァンナは渾身の「業火フレイムストライク」を放つと、続けて告げる。


「状態変化を確認してみな…。」



 不調・吐き気・不信・不運・無気力・混乱・疲労・愚昧・怯え・衰弱


 悲鳴と共に炎に包まれたノイモントは姿を消した。



 派手な「火球ファイアボール」の強襲の裏で「愚昧」をかけ、「邪眼」を使い「苦悩」「不運」等々の状態異常攻撃をし、つかみかかって接触する際にも重複させ続けた結果だ。

 状態異常に耐性のあるアンデッドじゃなく妖精だったのが幸いした。




 俺とグヴィンはいよいよ本格的な冒険に出ようと、馬車に荷物と食料を積み込んでいた。

 この馬車は地球の知識と技術を提供した礼として、ジョヴァンナから送られた。

 メタリカーナ一家の技師達の好意で試作中の蒸気自動車のパーツや技術を所々に使って作られた特注品だ。皆厳ついがどこか温かみのある人達だ。

 馬車の動力は馬ではなく双頭犬オルキュロスになる。ハーネスとリードは「キルケーの毒」で作ったものを使うので、着け外しに不自由もない。


 ジョヴァンナがツナツルを連れてやって来た。


「頼みがあるのですが、アイアイエーに住む魔女『ガブリエス』のもとに、この子を連れて行ってもらえないでしょうか。」


 ジョヴァンナ・メタリカーナは珍しく真剣な目で懇願した。

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