古川没落(二)

 無論古川の人々とて馬鹿ではない。

 小島時秀より祝賀の使者が贈呈品を持参しても、古川家中衆は徹底して小島家からの人や物の出入りを規制した。古川家中においては先代済継なりつぐの死は、小島時秀による毒殺であるといまも強く信じられていたのである。

 なので古川城門前では、なんとしても贈呈品を渡そうという小島家家中衆と門前払いしようという古川家中衆との間でいざこざが発生していた。


「なんとしても受け取っていただかねば主に叱責されます」

 そう言って食い下がる小島家中衆に対し、古川家中衆は

「知ったことか」

 と取り付く島もない。

「拝謁の儀がまかり成らぬのは仕方ありませんが、品物だけは受け取っていただかねば困ります」

「それほどまでに困るというのであればその辺に打ち捨てて帰れば良かろう。兎に角小島家からの人と物の出入りは一切ならぬとの御諚。早々に引き取れ」

 古川家中衆は頑なである。

 そこへ現れたのは渡部筑前であった。騒ぎを聞きつけて御殿から出て来たものであった。

「なにをやっているか」

 渡部筑前の問いに、門番が

「小島家からの使者が、目通り適わぬのはやむを得ないとしても祝賀の品だけは受け取っていただかねば困ると申して斯くの如くしつこく居座っているのです」

 と言うと、渡部筑前は

「面白い」

 とさながら舌なめずりするかのような表情を見せた。

「祝賀品とやら、この場で品定めしてやろう。開けて見せよ」

 渡部筑前は、夫馬ぶうま一疋に曳かれた酒樽と蒔絵の箱を指差しながら言うと、小島家家中衆は色を成して言った。

「主から済俊公に贈呈された品です。この場にて開披を求めるなど無礼でありましょう」

「良い。開けて見せよ」

「良いことなどありません」

「物によっては済俊公に献じようというのだ。いいから開けて見せよ」

 そうまで言われては開披に応じざるを得ない小島家中衆である。


 蒔絵の箱を開けると頭巾が一つ。何の変哲もない。


「これは納めておいてやろう」

 渡部筑前はそう言うと、今度は

「次はその酒樽を開けて見せよ」

 と求めた。

「地酒でございます。いま開けてしまえばお召し上がりいただけません」

 小島家中衆の言うことは尤もで、この場で鏡開きをしてしまえば、本丸までの嶮岨な道すがら、小虫や木の葉が混入してしまい、贈呈品としては用をなさなくなるだろう。

 だが

「良い。開けて見せよ」

 と、なおも渡部筑前は鏡開きを求める。これに対し小島家中衆は、贈呈品としての価値を失することを理由に、飽くまで応じないつもりのように見えた。

 渡部筑前はそんな小島家中衆の眼前で、強引に樽を叩き割ってしまった。

「なにをなさるか!」

 小島家中衆が怒号を発する。それに対し渡部筑前が言ったひと言は、小島家中衆を凍り付かせるに十分であった。

「この酒、この場で飲んで見せよ」

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