第35話 帝国歴323年9月、帝国指針提示


 ASUCAはニコラの待つボルシェに帰還し、今回の作戦の報告を行った。すでに解放軍司令部から陸軍局を通し多数の投降者を受け入れている連絡を得ていたニコラは、


「ASUCA、ご苦労。おそらく、連邦軍の兵士たちはお前の姿を見て投降を始めたんだと思うぞ」


「私の姿を見て?」


「ASUCAはいつも同じ軍服に皇帝旗を持っているだろ? そしていつもたった一人で敵陣に現れる。あの姿は連邦軍にとってトラウマになっていると思うぞ」


「そんなものなのでしょうか?」


「人間というのはそんなものなのだ。こちらも投降してきた敵兵を殺すわけにもいかないので、武装解除して非戦の宣誓させたうえで開放することにした。幹線道路の整備に使えばどうかという考えもあったが、却下した。捕虜収容施設も十分にない上、国内の雇用創設の意味もある工事だからな。


 あの国のことだ。解放された兵隊たちは、見つかれば敵前逃亡罪で銃殺される可能性もあるから、そのまま民間の中に溶け込むか匪賊にでも身をやつす可能性もある。

 それと、解放軍も中央指導部の連中をまだ誰も逮捕できていないようだ。ASUCAの報告通りマクスバからすでに逃げ出しているのだろう」


「疎開先はハイネ連邦第3の都市ウルスクの可能性が私も高いと思いますがいかがしますか? スカイレイで飛べば簡単ですが」


「ASUCAがウルスクで連中を発見しても単独では逮捕拘束できないし、わが国は文明国である以上死にたくなければ降伏しろともいえない。つまり連中が納得する以外戦争を止める手立てはない。

 連邦は広すぎる。軍をこれ以上東に進めると補給が厳しくなる。マクスバを拠点として今後は南方の資源・穀倉地帯を制圧するつもりだ。食料が不足すればそのうち連邦の連中も音を上げるかも知れないからな。連邦が受け入れる受け入れないは分からないが、南方を攻略すればそこでいったん連邦に対して講和の申し入れをするつもりだ。

 いずれにせよ、南方にはまとまった軍事拠点は存在しないようなので、よほどのことのない限りお前の出番はなくなりそうだ。来月にはここも引き払ってコルダに戻る」


「了解しました。失礼します」




 翌日の御前会議。


 軍務大臣によるマクスバ攻略作戦の無事成功と捕虜の扱いについての報告のあと、ニコラは今後のハイネ連邦に対する陸軍の軍事行動の指針を示した。


「連邦の政治的中枢はグルーパ山脈のさらに東方ウルスクに移動したとの情報もある。これを追うことは当面不可能なため、解放軍の東進は今回のマスクバ攻略で一旦停止して、南方資源・穀倉地帯の攻略に取り掛かる。連邦の南方地帯には強力な軍事拠点は無いようなので、マキナドール、アスカ・エンダー大佐の投入もおそらく不要だろう。

 われわれもここボルシェを引き払いコルダに戻ろうと思う。エンダー大佐の出番があるようなら、コルダからでも飛行機械で簡単に投入できるからな。

 ビズマ宰相、コルダへの帰還の手配を頼む」


「はい」


「それと、これは海軍に考えてもらいたいことだが、今回私の研究所で開発した飛行機械だがな、これを海軍で量産化可能な形として開発してもらいたい。先端技術研究所で作ったものは特殊な動力を使っているため、海軍では別の動力での開発を頼む。カイネタイトディスクだと重量当たりのパワーが不足するから、動力は液体石油を使った内燃機関が適当だろう。空力的な資料などはこちらで用意するから、まずは軽量高出力な内燃機関の開発を進めてくれ」


「はっ」


「それと、先月末、アスカが搭乗する飛行機械から戦艦の40センチ砲弾を投下してアンガリアの国会議事堂を破壊したが、その時使用した砲弾には、投下物誘導装置なるものを取り付けている。これは、海軍で開発した水中自爆型ドールのマネをして、目標に正確に投下物を誘導させるものだ。水中自爆型ドールは自力航行するが、これは落ちていくだけだがな。簡単な装置だし、資料は提供するので、海軍で飛行機械が完成するころには作れるようになっていてくれ」


「はっ」


「次は、陸軍だ。

 同じような発想で、砲弾を誘導できないものかと思ったんだが、大砲で砲弾を発射すると衝撃が強すぎて、砲弾に誘導装置を組み込んだとしても装置自体が破壊されてしまう。陸軍には徐々に砲弾を加速する方法を考えてもらいたい。そうだな、砲弾内に燃焼剤を仕込みそれを制御しながら燃焼させて推進力に変えるという方法もあると思う」


「さっそく研究に取り掛かります」


「頼んだ。

 あと今後の研究課題だが、飛行機械に兵士やドール、物資を乗せて輸送できれば便利だろ? 要するに、砲弾を積む代わりに人や物を乗せるわけだ。輸送用飛行機械だな」


「あわせて研究を進めます。ところで、現在開発を進めているmk6:ドミニオンの開発はいかがしましょう?」


「開発の進捗の方はどうなっている? あまり順調ではないようだが」


「この際ですからはっきり申し上げますと、暗礁に乗り上げたとでも申しますか」


「現状mk5:デュナミスでも他国に対して優位に立っているので問題はないが、これがいつまで続くか分からない。mk6の開発の方は鋭意進めてくれ。mk6の現状の問題点を正確にまとめたものを私の研究所に送っておいてくれれば、なにがしかの対応はできると思うぞ」


「ありがとうございます」




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