02.修行


 ジンさんを連れてカルディアは、医務室に向かっていった。

 まじであいつは何してるんだ・・・。


「さぁ、旅人先生。動きを見せていただこう」


「は、はい」


 あんなにいた門下生はいなかった。爺さんは、何も持たずに、俺と向き合っている。


「気遣いは無用。好きなようにくるといい」


 そういわれても、変なとこに当てたら、大変なことになりそうだ。

 なんて心配していたのは最初の頃だけで、結果からいうと攻撃は一切当たらなかった。


「どうされた先生。全力で来なされ」


 俺は気がひけるが身体強化を行って、爺さんに挑んだ。

 だが、カスリもしなかった。さっきよりも速度をあげたのに、俺の攻撃を爺さんは全部避けた。身体強化のない、爺さんが全部よけやがった。

 そのうち、本気になって今できる最高レベルの身体強化を行って、爺さんに挑んだが、結果は変わらなかった。



「魔法というのは便利なものじゃな。見違えるように早く動いておる」


 俺の動きが、身体強化によって飛躍的に向上したのをみて、爺さんが呟いた。

 しばらく打ち合って、爺さんは動きを止めた。


「ど、どうでしょうか」


「そうじゃな、当たれば有効な一撃じゃろうな。その辺の者になら、十分通じるじゃろう」


「そ、そうですか」



 爺さんは、おもむろに木刀を持った。

 その瞬間、周りの空気が変わって、俺と向き合った瞬間、とんでもない殺気が放たれる。

 体が動かないし、うまく息もできない。手が震えてきて、額から汗がたれた。知らない間に、身体中汗だらけだ。ダメだ、何もできない。


 こ、殺されてしまう。



「ふむ。先生。それでは、生き残れんよ。先生は、心がすぐに折れてしまうようじゃな。生き残ろうとしておらん」


「えっ」


「逃げるでもなく戦うでもなく、ただ諦めてしまっておるな。それも異常なほどに、諦めが早い」


 何も言えない。


「先生は、随分と安全なところで生きて来たようだ。まるで生き死にが他人事のような感じに見て取れる。これは、もはや剣や魔法など、いくら使えようが関係ない話じゃな」


「そ、そうですね。ここよりも確実に安全な所で生きて来ました。死は、不慮のものというような感覚で生きて来ました・・・」


「ふーむ。いいか先生、この世界は甘くない。気を抜けばすぐに死んでしまう」


「は、はい」


「先生には、大きな恩がある。死んでほしくない。だから、ワシが先生に教えよう」


 また息ができなくなるほどの殺気が襲って来た。


「生き残り方を」


「お、お願いします」




 その後は、親方や元冒険者の狩人や、親方が助けたご夫婦、他にも懐かしいメンバーが流れ込んできて、庭で大宴会が始まった。バーベキュースタイルだ。

 気がつけば、包帯を巻いたジンさんや、門下生も参加している。カルディアも上機嫌で、飲んで騒いでいる。宴は夜まで続き、日付が変わるぐらいに、皆仕事があるので退散していく。

 俺もカルディアをおんぶしながら、親分が用意してくれた宿に向かった。


 宿で手続きすると、なんと用意してくれていたのは、一人部屋だった。

 そうか、親分に会った時は俺と爺さんだけだったのか。


 そして、運がいいのか悪いのか、宿が満室で仕方なく同室になる。

 カルディアはもう完全に酔いつぶれているので、ベッドに寝かせて、俺は、ソファでねる。

 しばらくして

 

「タケシ、もう寝たか?」


「いや、どうした」


「楽しかったなぁ、今日は。みんないい人達だ」


「あぁ」


「あの爺さん、只者じゃないな。私はあの人に勝てないかもしれない」


「そっか。最強の剣士って噂だしな」


「そうか最強か。お前に剣を教えてやってくれって、飲んでる時に頼んでおいたんだ。だから明日から爺さんが見てくれると思う。なんというか、私の剣は直感でやってるだけだから、ちゃんと教えられなくて、師匠なのに・・・その、ごめん」


 俺が剣で伸び悩んでることを心配してくれていたのが嬉しかった。そして、たぶん爺さんも気を使って、俺が爺さんにお願いしたことをカルディアに話していないようだ。

 みんないいヤツばっかりだな。俺は、本当に運がいい。


「ありがとう。カルディア。俺頑張るな」


「あぁ、私も応援してる」


「おやすみ」


「おやすみー」




 翌日から、爺さんとの修行が始まった。

 剣を持たずに組手をひたすら。その間、爺さんからは殺気がずっと放たれつづけていた。


 途中なぜか、カルディアが爺さんに魔法を教え始めた。爺さんは魔法を放つことはできなかったが、驚いたことに自身に魔力を巡らせる魔法つまり身体強化ができるようになった。

 もともと、最強と言われていたが、これで、またとんでもなく強くなったことだろう。


 そして、俺が爺さんの気迫に耐えられるようになった頃、俺の体は以前よりも自然に動くようになっていた。

 そこから爺さんに剣の持ち方から教わった。剣の振り方、足の運び方。体の動かし方。剣を中心にすえた動き方を、繰り返し、繰り返し。ずっとそれだけをずっと。


 たまに、爺さんとカルディアが打ち合っているが、とんでもない速度だ。爺さんも身体強化を使いこなしている。どんなけ強くなるんだ。

 カルディアが楽しそうで、なによりだ。



 しばらくたったある日、急に爺さんが言った。


「もう大丈夫じゃな」


「えっ」


 まだ、技もおそわってないのに?何が大丈夫なんだ?

 どうなってんだ?


「これで、簡単には死なんよ」


「えっ」


「なんか、こう技みたいのは・・・」


「技か。今の先生に教えられる技はないな」


「そ、そうですか・・・」


 残念そうな顔している俺をみて、爺さんは、こういった。


「身体強化をかけて、ただ斬りかかるだけでいいんじゃ。技などなくとも強い。もっといえば、技などよりも断然強い。あとは、自分に自信を持つことじゃな。これはワシがどうこう出来るものではない。自分でなんとかするしかないのう」


 こうして、俺の修行はよくわからないうちに終わった。

 何かすごい必殺技とか覚えたわけでもなく、それっぽい型を習ったわけでもなく。

 ただ、動きだけは、今までよりもよくなったのは確かだ。カルディアにも褒められた。


 それからしばらくは、診療所を手伝ったりしていた。

 ある日、アディさんから「そろそろみんなで修行をしませんか」とお誘いがきたので、また旅にでることになった。出発の前日は、夜まで盛大な宴会が開かれ、出発当日は前みたいに、またみんなに送り出してもらった。



 そして、カルディアと二人、魔界に旅立った。

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