第348話・頂上の世界(1)
プリームスの掌に乗った緑光魔石が音も無く2つに割れた。
次の瞬間、プリームスを中心に衝撃波が発生し、10m離れたインシオンへ直撃する。
しかし直ぐに絶掌を発動させた為、被害は皆無だ・・・が、インシオンは驚きを隠せないでいた。
「何だ?! その姿は・・・」
プリームスの髪は透き通る淡い緑色に変色し、瞳も不純物を一切含まない翠玉の色を湛える。
更に身体の周囲には帯電しているかの様に、極小の稲光が漂っては消えていた。
「私の奥の手だよ。硝子の剣との相性も考えて、大気の精霊力を使うことにした。と言うか、お主の速度に対応するには此れが一番楽かと思ってな」
とプリームスは自嘲して告げる。
目を見開きインシオンは呆然として問うた。
「もはや人の域を超えている・・・卿は一体何者なのだ?!」
彼がそう問うのも無理は無い。
今のプリームスの様相は人に在らず、加えて放たれる魔力、気、威圧感が人のそれを超えていた。
プリームスは可愛らしく少し首を傾げ呟く。
「何者・・・?」
そして薄っすらと笑み続けた。
「私は”この世界の住人でな無い”、只の異邦人だよ・・・」
その言い様は儚く非常に美しく見えたが、インシオンには薄ら寒く感じた。
今まで自身より強大な敵と相対した事が無かった・・・なのに眼前の存在は互角に戦い、尚も強さを増大させたのだ。
これが現実であるなら、不気味に感じずには居られない。
この世界で
また同時に思う。
全力を出しても簡単に壊れない相手が現れた・・・と。
それは頂上に君臨し続けた超絶者故の喜びであった。
「フフフ・・・ハハハ・・・面白い! 本当に卿の言う様な”只の人”なのか確かめてやろう!」
インシオンは漆黒の刃を振りかぶり言い放った。
「!!?」
刹那、視界に居た筈のプリームスが消失したのだ。
だが第六感とも言うべき”天衣無縫・界”が、インシオンへ危険を察知させる。
『後ろか!』
もう五感では捉える事の出来ないプリームスへ、驚愕しつつも嬉々とした感情が心中を支配した。
甲高い音が周囲に響き渡った。
背後へ放った神速の払い斬りと、プリームスの縦斬りが衝突したのだ。
「ほほう・・・流石だな。これが容易に受け止められると、私も困ってしまうぞ」
そう笑みを浮かべ告げるプリームスは、受け止められた硝子の剣へ力を込める。
その膂力は凄まじく、とても小柄で華奢なプリームスの物とは思えない。
何故なら受け止めていたインシオンの足元が、僅かだが地面に沈んだのだ。
「ぬぅ!? これは・・・技なのか? 膂力も速度も尋常では無い・・・」
驚きが口を衝くインシオン。
プリームスは只の一振りで、インシオンの動きを封じたまま笑顔で答えた。
「これは精霊化と言う。魔術と仙道を合わせ私が編み出した技だよ。だが、これが止められたとなると・・・もう少し本気を出さねばならぬな」
「何だと・・・?!」
インシオンの表情が、怪訝と驚愕の織り交ざった感情に覆われた。
途端、漆黒の刃に掛かった膂力が消失し、左右から殆ど時間差が無く危険を察知する。
「ぬぅぅ!」
インシオンはこれまで必要としなかった力を、今ここで・・・全身全霊を注いだ。
甲高い金属音が2つ続けて響き渡る。
右からの斬撃を漆黒の刃で受け止め、ほぼ同時に襲った左からの斬撃を”絶掌”で受け止めたのだ。
だがプリームスは止まらない。
尚も続くプリームスの連撃がインシオンに迫る。
それは左右、前後、足元、更には頭上からも襲い掛かった。
「ぬぅぅぉおおおおおお!!」
冷静沈着だった
しかしプリームスの斬撃は間断なく続き、速度と威力は増し続ける。
次第に被弾し始めたインシオンは後退を余儀なくされた。
即座にプリームスから距離を取ると、インシオンは漆黒の刃を地面に突き立て身を支え告げる。
「この世界に、”この私”と互角以上に戦える者が居たとはな・・・」
その姿は致命傷では無いが、肩や背、腕や額に出来た切創で血が滴り、藤色の打掛を赤く染めていた。
「全てを達観した世界など面白みが無い・・・お主が言った言葉だ。もう充分に楽しんだだろう? 幕を引くとしようか・・・」
プリームスは硝子の剣の切っ先をインシオンに向け言った。
「フフフフ・・・クククッ・・・・」
少し俯いたインシオンは、何かを嘲笑うかのように小声を漏らした。
プリームスは剣を下ろすと、訝し気に問い質す。
「どうした? 負けを・・・現実を受け止められずに気でも触れたか?」
インシオンは額から滴った血を左手で拭うと、プリームスを見つめて答える。
「フフ・・・いや、すまない。私は正気だ・・・」
そして漆黒の刃を真横に掲げて続けた。
「楽しくて仕方が無いのだ。この250年の生涯は、正にこの時の為に有ったのやも知れぬな・・・」
その時、真横に掲げた漆黒の刃が、まるで虚空に霧散するかの如く消失し出す。
「私も人相手には封じていた技がある・・・。魔神の王と戦う可能性を考え温存していた物だが・・・卿になら問題あるまい」
そう静かにインシオンが告げたと同時に、プリームスの身体から魔力の消失感が無くなった。
『!? 結界を・・・天衣無縫・界を解いたのか?』
プリームスの考えを察したのか、インシオンは静かに言った。
「結界を解除したのでは無い。形を変えたのだ・・・小さく狭く成りはしたがね」
空間全体から感じていた圧迫感は消失した・・・だがその全てが更なる未知と融合しインシオンから放たれていたのだ。
「相対する者の力を削ぐなど、小狡い真似は止めだ。行くぞ、超絶者プリームス。我が奥義”天衣無縫・臨”を受け切ってみせよ!」
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