第293話・変わらぬ忠誠と矛盾

プリームスより身内の構成を聞かされて、オリゴロゴスは床へ崩れる様に両手をつく。

「王権をプリームス殿に譲渡までは良いとして・・・まさか部下?傘下?だと??!」

自身が忠誠を捧げていた王が、目の前に居る純白絶世の美少女へ降ったのだ。


正直言ってプリームスは、昨日今日会ったばかりの人物でオリゴロゴスとの間に”歴史”が無いのだ。

故に頭では理解出来ていても、心がそれを中々認めさせてはくれなかった。



『実際に立ち合い、プリームス殿の武力が神域に達している事は理解した。だがシュネイ様が王権を譲渡してまで降る価値があるのか・・・・その人徳がプリームス殿に備わているのか計り兼ねる』


王で在るシュネイが決めた事。

ならば臣下は其れに従うまでだが、それでもオリゴロゴスは確証が欲しかったのであった。



自身の心中で葛藤するオリゴロゴスを見透かす様に、

「オリゴロゴス殿・・・貴方は無理に従う必要は無い。全てが終わってから見定めても良いし、それでも納得が行かぬなら袂を分かつと良かろう?」

とプリームスは冷静に話し掛けた。


「そんな事が出来る訳無かろう!」

と半ば怒り出すオリゴロゴス。



プリームスは溜息をつく。

『私が王権を辞退すれば良いのだが・・・それはそれで”王の思いを蔑ろにするか!”と怒って来そうだしな・・・』

そう言う訳でプリームスは妥協案を提示した。

「無理に私を王と認める必要は無い。オリゴロゴス殿からすればシュネイこそが”唯一の王”なのだろうしな」



「つまり?」と念を押す様にオリゴロゴスが問いかける。



「そのままシュネイへ忠誠を捧げればよい。で、私には他国の王に接する様な態度で問題あるまい?」

要するにプリームスの言い様は、義務的に見た目だけ繕えば良いと言っているのだ。



「信義にもとる気がするが・・・2つを同時に選ぶことは出来ないゆえな」

釈然としない様子ではあるが、今はそれで折り合いを付けるしかない・・・そんな表情を浮かべてオリゴロゴスは頷いた。

一見、頑固そうに感じるオリゴロゴスではあるが、真実の忠誠とは本来そう言う物なのである。



『信義にもとるとは、私に対しての後ろめたさなのだろうが・・・むさ苦しいオッサンの忠誠など私は無くても困らん』

などと内心で呟き、プリームスはほくそ笑む。



何とか落ち着いたかに見えた時、イリタビリスはボソリと呟いた。

「師匠は、そんなにも王の事が大事なの? あたしにはよく分からなないよ」



『もう蒸し返すな!』

と焦るプリームスではあるが、オリゴロゴスは意外と怒る事無く諭す様に答える。

「イリタビリス・・・。王をようすればいずれ分かる。そうだな・・・例えばお主が好いて止まないプリームス殿は、他の何かに代える事が出来るかね? 無理なのではないか?」



すると躊躇う事無くイリタビリスは頷いた。

「うん、無理! プリームスは1人だし、代われる人なんて居ない!」



「そうだろう。イリタビリスのその思いはたった一つの物。ワシがシュネイ様に捧げる忠誠はそれと同じ様な物なのだよ」

そう告げたオリゴロゴスの口調は、とても優しく聴こえた。

やはり愛弟子は可愛いのだろう。



イリタビリスも理解出来たようだ。

「そっか・・・気持ちって難しいね」

そして何か気が付いたように続けた。

「ひょっとして、あたし達と都市部に別れちゃったのは、そう言うのが関係しているのかな?」


正に核心を突く質問であった。



オリゴロゴスは少し言い淀む様子で考え込む。

「う~む・・・。この地下世界を殆ど牛耳っているモナクーシアは、ワシと同じくシュネイ様への忠誠は失っていない筈なのだ。だが・・・・」



オリゴロゴスから得た情報では、モナクーシアは王で在るシュネイを慕っていた。

ならばシュネイを裏切る様な事はしないのが道理である。

しかし現状はどうだろうか?


次元断絶により地下世界が孤立した後、そこに残った人間を力と策で統率し、同調しない者の命を奪っていったのだ。

この惨状を見てシュネイが悲しむのは明白であり、それこそが裏切りでは無いのか?

プリームスは、そう思わずには居られない。

だがそれを押してでもモナクーシアは、”すべき何か”理由があったのか?



プリームスは洞察する。

『単純に考えれば良いのだ・・・』

勢力は2極化していた──地上からの救援を待つオリゴロゴス側と、自身で次元断絶を越えようと画策するモナクーシア。

『つまり次元断絶を越えなければならない理由があり、地上への侵攻は後付けなのではないか?』


推測は飽く迄、推測の域を出ない。

確証を得る為には、やはり実行に移し確かめ、そして解決せねばならないのだ。



「全てはモナクーシアに会って問い質せば分かる事。先ずはその前に下準備をせねばな・・・」

そうプリームスは告げると、居間を出て玄関へ向かう。


その後を追うイリタビリスを見送りながら、

「気を付けるんじゃぞ。今は少ないが徘徊する魔神も居る。それからモナクーシアの闘士や兵士も我々へ危害を加えよう・・・」

オリゴロゴスは心配そうに言った。



「それにモナクーシアに会うのも難しいかもしれんしな。だが心配いらん。何か不味い事が起きれば、仕切り直す方法を幾つか用意しているゆえ問題無い」

と振り返らずプリームスが続く。


イリタビリスも振り返らず軽快な足取りで玄関に向かった。

「だって! じゃぁ行って来るね」




オリゴロゴスは何とも言えない漠然とした不安に駆られた。

『超絶者であり、ワシの倍も生きているプリームス殿が”問題無い”と言うのだから、そうなのだろうが・・・』

モナクーシアが一筋縄ではいかない事を、オリゴロゴスは痛い程知っている。

故にプリームスが、それを上回る確証が無ければ杞憂では済まないのであった。







 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







集落から出て、隠蔽結界からも抜け出した2人。

プリームスは地図を取り出し、都市から一番遠い起動支柱の位置を指さした。

「イリタビリス、ここまで案内してくれるか?」


そこはプリームスが地下世界に転送されて、初めて目の当たりにした断崖の近くだ。

方角にして都市を起点に東側──剣聖インシオンが結界を張っている丁度真逆に当たる。



「うん、分かった!」

そう言ってイリタビリスは、早々にプリームスの手を引き歩き出すのであった。


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