第270話・守り人一族の国教(2)

プリームスは、オリゴロゴスの話から守り人一族と魔導院が、スキアと言う同じ神を信奉している事を知る。

これは詰まる所、魔導院も魔神と戦う宿命にあるのだと推測出来た。



「で、オリゴロゴス殿は軍部の長だったのだろう? なのに都市を大司教に牛耳られているとは、どう言う事だ?」

プリームスは当然の疑問を口にする。


軍部の長・・・それは守り人の全軍事力を掌握している筈なのである。

そんなオリゴロゴスが"文官ぽい"大司教に遅れを取るとは思えなかった。



オリゴロゴスは何かに落胆するように、深く溜息をついた。

「互いに見下していたツケが、今になって巡りこの結果だ・・・。我々は王が居なければ、とても1枚岩とは言えん間柄にあったと言う訳だよ」



少し要領を得ないオリゴロゴスの言い様だが、言外に表そうとする事実はプリームスへ微妙に伝わる。

『つまり元から大司教側と大僧正側は、仲が良く無かったのか・・・』


古来より国と言う組織体では、文官と武官の関係性が悪い事は珍しくないのだ。

その為この国を支える2つの内部勢力を、上手く仲介し制御するのが王の役目と言っても過言では無かった。



武官──軍部が力を付け過ぎれば軍国主義となり、他国を侵略し続け、最後には滅びる運命を歩むこととなる。

逆に文官が力を持つと、軍部を政治の道具として扱ってしまう。

そうなれば隣国に対し政治的優勢を保つため、結果的に戦争へ発展してしまうのだ。


そうならない為にも王は両者の手綱をしっかりと握り、国が存続するように運営して行かなければならない。



しかし守り人の一族は普通の国とは異なり、国と言って良いのかさえも迷われる。

それは地上での法則や理論が通じるかと問われれば、疑問の余地を払拭しきれないからだ。

だが1つ言える事は、魔神と戦争が出来る程の軍事力を有し、地上の国々をも遥かに凌ぐ力を持っていたのは確かなのだ。



『大司教側・・・つまり文官と思われる勢力も、高い戦闘能力を有していたのかもな』

そうプリームスが推測していると、オリゴロゴスは話を続けた。



「守り人の一族はスキア神より仙術、魔術の才能、そしてそれらを使いこなす為の頭脳と頑強な肉体が与えられたと言われている。魔術の才が秀でた者は聡明な頭脳を有し、それを生かし一族の政治的側面を支えて来た。また仙術の才を持つ者は優れた肉体を有していた為、魔神と戦う為の軍部を担ってきたのだ」



シュネイから聞いていた話と異なると感じたプリームス。

「仙術の使い手はイースヒースしか居ないと聞いていたが・・・?」


するとオリゴロゴスは少し考え、直ぐに答えてくれた。

「あ~、それは恐らくだな、指揮官級──つまり上級魔神と正面からサシで戦える皆伝位級の達人は、”迷宮”にイースヒースしか居ないと言う事だろう」




それらの情報を踏まえてプリームスはある事が脳裏を過り、少し酔っていた所為か口を衝いてしまう。

「遺伝子操作・・・・禁忌である神域の業は、正に神より得た技術だった訳だな・・・」

これは王で在るシュネイから得た情報からの推測だが、まず間違いないだろう。



頷き、オリゴロゴスは感心したような表情を浮かべた。

「どのような話を王としたのかは知らんが・・・そこまで我々の事を知り及んでいたか」



小さく首を横に振りプリームスは否定するように告げる。

「只の推測が的を射ただけだ・・・。だが、魔神と戦い続ける事が可能な戦力を維持するには、そう言った禁忌の技を使うのが手っ取り早いのは容易に気が付く」


そしてニヤリと笑みをオリゴロゴスに向けて言った。

「しかもだ、人類では勝ちえない存在が魔神なのだ・・・・この世界が滅亡しない為にも手段は選べなかった訳であろう?」



「フフフ・・・流石プリームス殿だな、王が選んだだけの事はある」

プリームスに全て見抜かれた様な感覚に陥り、オリゴロゴスは自嘲するしか出来なかった。




これらの遣り取りからプリームスは増々疑問が深まる。

戦闘に特化されたオリゴロゴス側が、魔術の際に秀でた程度の人間に遅れを取るとは、やはり思えないのだ。

実際に戦う相手は魔神であり、その魔神は巨人族を凌駕する頑強さと、恐ろしい程の身体能力に加え、更には強大な魔法まで使用して来るのだから。



ふと、プリームスは神託の棺の事を思い出す。

神託の棺からは年に一度、未知の技術が記された石板が顕現するのだ。

それは地上の文明技術を超える物で、守り人一族が魔神と戦う為に必要な物でもあった。

またその石板は解読分析せねばならない訳で、それを担当する部署も存在した筈なのだ。



「ひょっとして神託の棺は都市に・・・・まさか神殿にあるのか?」

プリームスの独り言の様な問いに、オリゴロゴスは遺憾な表情で頷いた。



「神託の棺の事まで知っているのか! これは最早、隠し事をするだけ無駄やもしれんな・・・・」

驚き、直ぐに諦めの表情を浮かべたオリゴロゴスは続けた。

「その通りだ。神託の棺は神殿にある。そしてその管理と石板の解読は行政府の管轄なのだ」



プリームスは容易に導き出せたその続きを、オリゴロゴスに代わり言った。

「で、その行政府とやらの長が大司教と言う訳か・・・。ちなみにオリゴロゴス殿の地位は何なのだ?」

気落ちしたように肯定して後、オリゴロゴスは答えた。

「うむ・・・ワシの地位は大僧正で、役職は元帥だ。一応、軍部の最高権限を持っておってな元帥府も置いていた」



最高権限を持っていた者が、今では只の集落の長とは寂しいかぎりである。

そしてそうなってしまった経緯を聞く為に、プリームスは先を促した。



オリゴロゴス曰く、顕現した石板の5割近くは解読が追い付いていなかったらしい。

守り人の民がこの地に辿り着いて1000年目に達する今現在、500枚近くの英知は放置されたことになる。

そして次元断絶が完成の間際、シュネイは未解読の石板を全て回収し迷宮へ脱出を果たしたのだった。



これにより残された神託の棺から今に至るまで、100枚の石板が顕現する。

要するに大司教はこの石板を解読し、その英知を実用化したのである。

また英知を得れば”力”を得る訳で、それに因って軍部と大僧正であるオリゴロゴスは追い込まれたのだろう。



「む? 神託の棺をシュネイは運び出さなかったのか?」

未知の文化や事柄を見聞きして知るのは、実に有意義だと感じるプリームス。

だが今回は何やら色々情報が交錯し複雑な為、段々とイライラして来てしまう。

セッカチと面倒臭がりの同時併発である・・・。



それを敏感に感じ取ったオリゴロゴスは、少し怯むような、そして申し訳無いような様子で弁解?し始めるのであった。


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