第252話・重責からの解放と決意
プリームスは顔には出さないが、戸惑い非常に慌てていた。
『ど、どうしてそうなるのだ・・・・?!』
シュネイは王で在る為に、自身の願いを口にする事が出来ないでいた。
故にプリームスは、シュネイが王権を捨てるように誘導したのだ。
だがそれが原因で何故か辞したシュネイの王位を、プリームスが受け取ると言う話の流れになってしまう。
『シュネイへ王権を捨て私の下僕となれ・・・・とは言った。だが何故そこから守り人一族の王に私が成るのだ??! あ、いや・・・待てよ・・・』
そう思い、自身の言い様が悪かった事にプリームスは気付く。
王権を捨てれば誰かがそれを引き継がねばならない──理由は、民達が路頭うに迷うからだ。
そしてシュネイがプリームスの下僕になれば、インシオンと民を救ってやると言ってしまった。
つまりこれらを踏まえれば「お前の王権を寄こせ、そうすれば代わりにインシオンと民を救ってやる」と解釈されても仕方ないのだ。
『わぁ~ん・・・私は只、シュネイが抱える王としての苦悩から解放してやろう思っただけなのに・・・・』
格好付けて冷酷に言い放った手前、今更撤回する事も出来ずプリームスは内心で項垂れてしまう。
そんな状態のプリームスとは露知らず、アグノスは目を輝かせて言った。
「プリームス様! あれ程煩わしい事を嫌っておいででしたのに・・・・ですが本当に王になり守り人一族を背負われるのでしたら、私は全力で補佐させて頂きます!」
余りあるアグノスのやる気に気圧されたプリームスは、引きつつも冷静さを装いながら話を進めた。
「う、うむ・・・・で、では、守り人の民を救出し、その後インシオンの救出に向かう。それで良いな?」
すると一同は、まるで王からの下知を受けたように首を垂れた。
シュネイは、その場に平伏したまま告げる。
「有難うございます・・・・この御恩は私の身と一生を持って御返ししたいと存じます」
それを聞いて「うへぇ~」と声が漏れそうになるプリームスだが、慌てて口をつぐむと思考を巡らせた。
『兎に角、今は時間を稼いで煙に巻きたい』
「その話は全て事が済んでからにしよう。それよりも少し疲れた・・・・部屋に戻って少し休みたい」
プリームスがそう苦し紛れに言うと、アグノスとシュネイが真に受けてしまう。
「プリームス様、それはいけません! 直ぐに寝室に戻りましょう」
と心配そうに寄り添おうとするアグノスだが、プリームスはテユーミアに抱えられている為にそれも叶わない。
片やシュネイは気落ちし、しゃがみ込んだ状態でプリームスを見上げて言った。
「申し訳ありません・・・・体調が万全でない時に、無理に御足労させてしまって・・・・」
『いや、テユーミアに抱えられていたので”御足労”はしてないのだけどね・・・』
と言う突っ込みは内心でしておいて、プリームスは冷静かつ疲れた表情で告げる。
「大丈夫だ、少し休めば回復するだろう。次元断絶を超える為の手段については、目覚めてから詳しく聞かせて貰うとしよう」
そしてテユーミアへ何も言わず頷くプリームス。
暗に”早く寝室へ連れて行け”と言っているのだ。
テユーミアも無言で頷くと、そそくさとプリームスを抱えて部屋を後にする。
アグノスはシュネイに一礼すると、
「シュネイ様、私はプリームス様のお世話をしなければなりませんので、これで失礼致しますね」
そう言って足早に後を追った。
水瓶に埋め尽くされた部屋に一人佇むシュネイは、徐に立ち上がり口元を押さえると小さく嗚咽を漏らした。
それは悲しみでは無く、重圧から解放された安堵感の表れ。
また自分では成し得なかった事をプリームスが全て背負ってくれる・・・・その歓喜が溢れ出したのであった。
『プリームス様・・・・何と強大で超絶で、そして寛大な御方なのでしょうか・・・』
シュネイの中で存在感を増し、プリームスの評価は天井知らずと言わんばかりに突き抜ける。
更にその想いは慈しみと昇華し、ホゥと色を帯びた吐息をシュネイは零した。
こうしてプリームスの魅力に捕らわれた犠牲者が、また一人誕生してしまう。
魅了した当の本人にはその自覚が無く、気付けば周囲に幾人も
今も昔も変わらぬ現状に、きっとプリームスは頭を抱える事となるだろう。
しかし今回は少し違うかもしれない。
シュネイは事細かくテユーミアやエスティーギアから情報を得ており、プリームスの事を随分と把握出来ていたのだ。
故に別世界から落ち延びて来た”魔王”で在った事も、また戦や権謀に疲れてしまっている事も知っていた。
『なら私が出来うる限りプリームス様をお守りしましょう』
そう意を決したシュネイは、まるで誰かが傍に居る様に告げる。
「民と剣聖の救出が済み次第、私は王を辞し、そして新たな我々の主はプリームス様となります。それを皆に伝え認識させるのです。さぁ行きなさい!」
シュネイ以外誰も居なかった筈のこの部屋に、確かに何者かの気配がした。
それはほんの一瞬であるが、シュネイの言葉を理解したかのように空気が揺れ動き、スッと消失する。
それを確認したのか、今度は自分に言い聞かせるようにシュネイは呟く。
「プリームス様はきっと王として扱われる事を嫌われるでしょう・・・。それでも私は貴女様とその家族を守る為に、形だけは作っておきたいのです」
シュネイはこれから受ける恩を、プリームスが望まない形で返してしまうかもしれないと躊躇う。
だがそれは心が迷いを示しただけで、決意したシュネイの”意志”は固い。
「今更何を迷う事があるのか・・・・」
王として幾度も迫られた”決断”で、この様な状況は慣れていた筈なのだ。
それでも”個人”として大切な物を2つも持ってしまい、シュネイは自身が弱くなったと自嘲する。
しかし新たな力が湧き起こるのも感じていた。
今まで漠然とした、”人類”と言う存在を守り続けて来たシュネイ。
それより解放され、今までインシオン以外に感じた事の無い個への想いが生まれていたのだった。
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