第244話・寝起きの聖女と守り人の王

プリームスが食事を済ませたのを見計らって、テユーミアとシュネイが部屋を訪れてきた。

身内であるテユーミアがプリームスの元に来るのは理由など必要なく、何か命令を受けない限り傍に居るのが当たり前である。


しかし守り人の王であるシュネイが来たのは当たり前で無い訳があり、プリームスはそれを見抜いていた。



プリームスはベッドに横になったまま会話の口火を切る。

「すまないシュネイ・・・王であるお主を前にこの様な状態で話す事を許せ」

シュネイは人類の為に魔神と戦って来た一族の王である。

故に地上の人間とは比較できぬ程に高貴で、敬畏を払わなければならない存在である筈だ。

しかしプリームスの言い様は、どう考えても対等以下への口の利き様と言えた。



「いえ、お気になさらないで下さい。私は貴女に”お願い”を伝えに来ただけなのですから」

とシュネイも完全に王らしからぬ下手したてな対応だ。



するとプリームスは少し皮肉めいた事を言い出す。

「正直なところ、お主には、ここまで私に面倒な事をさせた落とし前を付けさせるつもりだったのだ。しかし殊勝な態度を見せられると、そんな気も失せるな・・・・」


苦笑いを浮かべるシュネイ。

「プリームス様は私の求める想定した力を遥かに超えておられます。そんなお方を怒らせては、目的を達せる前に滅ぼされかねません。それに力を計るとは言え、こうしてご迷惑を御掛けしたのも事実。何かお詫びをさせて頂きたいと思っております」



想像以上に腰が低い態度をとるシュネイに、娘であるテユーミアが驚く程であった。

『真の目的を完遂する為なのは分かる・・・・でも何か他にプリームス様に対して思う所があるのでは・・・?』



訝しむテユーミアを余所に2人の話は進んでいく。

「ふむ、まぁそのお詫びに関しては全ての事が済んでからで良い。それよりも本題だ・・・私を試してまで此処に誘った本当の訳を聞こう」

プリームスにそう言われて少しホッとした様子のシュネイ。

冷静な顔をしていても、強大な”人外”の力を操れるプリームスが恐ろしかったのだろう。



「本当の訳・・・と言う事は、テユーミアからは表向きの依頼を聞いていると判断して宜しいのですね?」

シュネイに問われて頷くプリームス。

「うむ、お主が次元断絶で見捨てた一族を救い出して欲しいのだろう?」



”見捨てた”──それは人類を守る為に、自分の民を犠牲にしてしまったシュネイを責める様な、また揶揄する言い様だ。

だがシュネイは再び苦笑いを浮かべる。

「仰る通りです・・・・」

見捨てたのは事実であり、自身が抱いている本当の願いを告げるならば、王の資質無しと責められて当然だからであった。



するとプリームスは、申し訳ない表情で告げる。

「シュネイ・・・お主は身の程を弁えている上に聡いな・・・。今のは、お主を試す為に不敬な言い方をしたのだ、許せ・・・」



まさか試されているとは思わなかったシュネイは、驚きを隠せない。

「いえ・・・・プリームス様も御人が悪い。人知を超える武力や魔力だけでなく、人心を操る術にも長けておられるとは・・・・」


プリームスはニヤリと悪戯顔を浮かべる。

「どうだかな。しかしお主の本題もおおよその見当は付いている。大事な想い人がいるのだろう?」



これには驚きを超えて、驚愕し唖然とするしかシュネイに方法は無かった。

『心を読まれた? まさか魔法? それともテユーミアから全てを聞いた?』

混乱する思考を落ち着かせ、シュネイはテユーミアへ視線を送る。


テユーミアはそれに対し首を横に振って答える。

「私はプリームス様に表向きの依頼として、次元断絶で犠牲になった一族の話しかしておりません」



シュネイから受けたテユーミアの使命は、”強大な力を持つ可能性がある者”を迷宮の深部へ誘う事である。

それは表向きの依頼を話さずに実行される物であった。


そしてシュネイの想定する水準を超える”強大な力の所有者”には、表向きの依頼を話し王の元へ案内するようテユーミアへ指示していたのだ。

だがプリームスは”裏の依頼”を看破していた。



プリームスの底の知れぬ能力と洞察力にシュネイは畏怖を禁じ得ない。

また同時に自身の身勝手極まりない願いを見透かされ、その恥ずかしさと自己嫌悪で泣きそうになり俯きかける。



「人の強さとは、その意志の強さ・・・想いの強さだと私は考えている」

そう語り掛けるプリームスの声がした。



「どれだけ強大な力や、物質的に強固な肉体を持っていても、その意志や想いが脆弱ならば強いとも立派とも言えん。だがどれだけ貧弱な肉体で他人に憚るような願いの持ち主でも、それを完遂しようとし諦めぬ意志を持つ者こそ強者・・・そして尊敬に値すると私は考えている」


そのようにプリームスに告げられ、シュネイは自身が間違っていなかった事に安堵する。

超絶者たるプリームスから暗に「お前は身勝手な奴では無く、尊敬に値する」と言われたのだから。



嬉しさと安堵で少し瞳を滲ませたシュネイは、プリームスへ笑顔を向けて言った。

「有難うございます・・・プリームス様。本当に・・・私は100年もの歳月を待った甲斐がありました」



プリームスはこの迷宮で見た過去夢、そしてゴーレムミメーシスの存在からある答えに至っていた。

過去夢で見た女はシュネイであるのは間違いない・・・そしてその女に、夫婦めおととなる事を申し出る同格の者など早々いる筈も無い。


またその者は相当な実力の持ち主で、ミメーシスが模倣する相手だとプリームスは見当をつけていた。

『それ程の者の存在を迷宮から全く感じないのは変だ・・・・ならば答えは一つしかない』

そうプリームスは内心で呟き、シュネイが話し出すのを待つのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る