第188話・それぞれの思いと帰着点
魔導院とリヒトゲーニウス王国間の通信や行き来の問題が、一応は解決された。
しかしまだ些細な事ではあるが問題があった。
バリエンテ達の今の状況をどうするかである。
勿論それはメンティーラも含まれていた。
「俺達は一応魔術師学園の生徒だからな・・・そんな身分で魔術師ギルドの運営に携われっていわれてもなぁ・・・」
と苦言を呈するバリエンテ。
プリームスは特に何も憚ることなく言い退ける。
「魔術師学園など止めてしまえ、と言うか退学するんだ。そもそも君達程の実力で学園に居座るのは可笑しいだろう?」
そう言われては返す言葉もないバリエンテだが、これにはイディオトロピアが意義を唱えた。
「プリームスさんの言っている事は分かるんだけど、それだと私達がやって来た1年間に何の意味も無かった事になるわ。それだと正直辛いかな・・・・」
以前のバリエンテ達は魔導院に頼らざるを得ない、また弱みを握られた状態であった。
そして交換条件と共に魔導院の言いなりとなり魔術師学園への潜入依頼を受けた訳だ。
だが今はもうそんな縛る物も無く、学園に留まる必要も無い筈である。
メルセナリオがそれに対して、まるでバリエンテ達の肩を持つように口添えをしてきた。
「まぁ気持ちは分からんでもない。今では魔導院から受けた使命だけじゃぁ無いって事だろ。それに一年も学園の生徒として生活すりゃ情も湧くってもんだ。下級学部の生徒達が心配なんじゃないのか?」
イディオトロピアは、バリエンテやノイーギアを代弁するように頷いた。
「何だ、そんな事か・・・ならば心配いらない。君達がアロガンシア王子と決闘して勝利した事により、下級学部の待遇は改善される運びとなったよ」
そうプリームスはバリエンテ達に告げ、エスティーギアへ視線を送る。
そうするとエスティーギアは、理事長然とした様子でバリエンテ達に事の内容を語り始めた。
「以前より偏った物の考え方と閉鎖的な学園の気質に問題を感じていたのです。ですからこれが良い機会と思いまして抜本的な改革を行う事にしました」
エスティーギアが問題視していたのは、潜在的な能力は高いが教本通りのことしか出来ない中級学部以上の生徒の存在だ。
特に上級と特級に至っては貴族や豪商などの出身者が多い。
彼らは自身と同じ境遇や家柄で徒党を組みたがり、非常に排他的で閉鎖的であったのだ。
故に頭が固く柔軟性に欠け、優れた他者でも立場が劣っていれば聞く耳を持たない。
この様な者達が卒業してもリヒトゲーニウス王国の魔術力を支えられる訳も無かったのだ。
そしてここに来てバリエンテ達の活躍により、学内は一気に中級と上級学部を批判する気運が高まった。
それをエスティーギアは利用したのであった。
「基本的に下級から上級にかけて生徒に対する待遇の差を失くします。そこに差が有るとするならば、それはその学部で学ぶ水準だけです」
「そして修学が完了し単位が取得出来ていれば、直ぐにでも上の学部へ昇級可能になるでしょう」
そうエスティーギアはハッキリと断言する。
それを聞いたイディオトロピアは胸を撫で下ろした。
「そっか、じゃぁもう教室の皆を心配する必要は無いのね・・・良かった。少し寂しいきもするけど、新設ギルドの為に退学するわ」
バリエンテとノイーギアも理事長であるエスティーギアの言葉を信じ、特に異論は無く嬉しそうな表情を浮かべる。
「なら気兼ねなく魔術師ギルドに専念できるってもんだな!」
「そうね、この1年が無駄にならずに済んで良かった」
あとは法王ネオスの娘、メンティーラである。
彼女もバリエンテ達と同じく、使命の細かい内容は違えど学園に潜入していたのだ。
しかもバリエンテ達よりも2年も長く学園生活をしていたのだから、思う所がある筈であった。
「メンティーラ、魔術師ギルドの運営に注力して貰うが、その為には学園を辞めてもらわねばならん。問題無いかね?」
そうプリームスが尋ねると、メンティーラはキョトンとした様子で答えた。
「え?当然そのつもりでしたが・・・・。流石にこのまま生徒を”装う”意味も無いですし、新たな使命を得ましたから問題ありませんよ」
何とも淡泊と言うか、あっけらかんとしていると言うか。
バリエンテ達の事前の反応を考えると、メンティーラのそれは一同にとって唖然とせざるを得ない。
『本当に人とは多種多様だな・・・・実に面白い』
とプリームスはほくそ笑むのであった。
その後、魔術師ギルドの仮本部をどこに置くかが問題になる。
王宮や傭兵ギルドに間借りするなど色々案は出たが、いまいちしっくり来ず話し合いは暗礁に乗り上げてしまった。
そこで見かねたプリームスが、
「ええい面倒臭い! もうこの学園に間借りしろ!」
と言い出す始末。
大雑把で面倒臭がりの性格が爆発してしまった。
ダラダラと議論し一向に進まない事へプリームスは苛立ちを隠さなかった。
「もう私は疲れた! ゴロンしたい、ゴロン!」
などとまるで子供の駄々事を言い出してしまう。
これは不味いと感じるスキエンティア。
何が不味いかと言うと、プリームスは肉体的や精神的に負荷がかかると幼児退行してしまうのだ。
まだはっきりした理由は分からないが兎に角そう言う事なのだ。
流石に2国の首脳が集まるこの部屋で幼児退行されても困る。
そう言う訳でスキエンティアはフィエルテへ目配せをした。
それに気付いたフィエルテは慌てて傍に行くと、プリームスを優しく抱きかかえた。
少し驚いた様子のプリームスであったが、触り心地が良いフィエルテにご満悦の表情になりスキエンティアは胸を撫で下ろす。
そしてそのまま時間を稼ぐようにフィエルテへ目配せすると、
「プリームス様は少しお疲れのようですので、私が代役を務めましょう」
とスキエンティアは法王と王妃へ告げた。
プリームスに匹敵する程の絶世の美女が、突如首脳同士の会談へ割り込んできた。
これにはネオスも驚きを隠せない。
プリームスの”身内”なのは分かるが、そもそも何者なのかが把握出来ていなかったからだ。
それを察したエスティーギア王妃が、
「こちらはスキエンティア様です。以前はプリームス様の軍師をされていた方で、フィエルテさんの武術の師でもあります」
そうスキエンティアとネオスを交互に見やって告げた。
紹介されたスキエンティアは軽く会釈をする。
「女王陛下が言われた通りですが、今はプリームス様の只の従者です。お気遣いは無用です」
魔導院での謁見時、フィエルテの身のこなしはネオスも目にしていた。
そのフィエルテの師で、しかもプリームスの軍師だったのだから相当な人物であるのは間違いないのだ。
「そうですか・・・それではスキエンティア様の忌憚ない意見を聞かせて貰いましょう」
こうして話し合いは再開されたが、結局プリームスが言い放った魔術師学園に間借りする案が採用される事となってしまった。
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