第173話・幕引きの途上と困惑

プリームスはメンティーラの傍に屈み込んだ。

そして腰を抜かしたように地面に座り込んでしまったメンティーラを見て、

『う~む、これは少し脅しが過ぎたか?』

と反省する。



出来るだけ優しい口調を心がけるプリームス。

「怖い思いをさせてしまったな・・・もう安心しなさい、決闘はこれで終わりだ」

そうメンティーラへ告げながら優しくその頬に触れた。



メンティーラは暫くの間、呆然としてしまう。

まさかこんな優しく話し掛けられるとは思っていなかったからだ。

故におずおずと尋ねずには居られない。

「呪いをかけたり・・・拷問したりしない・・・?」



その問いかけを聞きプリームスは後悔してしまう。

『これは本当にやり過ぎたやもしれん・・・』

正直な話、こんな可愛らしい少女を精神的に追い詰める事はしたくなかったのである。


「何を馬鹿な事を・・・そんな非人道的な事をする訳がないだろう」

とプリームスは苦笑いをして答える事しか出来なかった。


そして優しくメンティーラの頭を撫でて続ける。

「ただ後ほど訊きたい事が有る故、理事長室まで来てもらうぞ」



するとホッとした表情を浮かべてメンティーラは無言で頷くのであった。

良く考えればプリームスがメンティーラを理事長室に呼び出すのは変である。

しかし今の彼女は安堵感が精神を満たし、その矛盾に気付かない。



更にプリームスはバリエンテにも同じような事を告げる。

「バリエンテさん、他の2人と共に理事長室に来て貰う事になるだろう。訊きたい事と話しておきたい事があるゆえな」



これにはメンティーラと違って直ぐに違和感を覚えるバリエンテ。

国外からの視察が理事長室を使うのは、どう考えても変だからだ。

だが恩人の申し出を拒否出来る訳も無く、バリエンテは戸惑いながらも頷くのであった。



理事長であるエスティーギアがプリームスの傍にやって来ると、

「プリームス様、お疲れでしょう? 事後処理はしておきますので、アグノスとお戻り下さい」

そう労うように言った。



正直なところ、結構な疲労感をプリームスは感じていた。

まだ完全に"馴染んでいない体”で、強大な魔法を連発したのだから当然とも言えるが・・・。


「すまない、では理事長の言葉に甘えるとしよう」

プリームスはそう言って傍に居たアグノスの胸へ顔を埋めた。



突然のプリームスの行動に驚くアグノスだが、さり気なく自分にも甘えてくれる事に喜びを感じてしまう。

しかしながら周囲の目もあるので、

「プリームス様、生徒達が見ていますから・・・理事長室に戻りましょう?」

と優しく抱きしめながら告げる。



するとプリームスは更に脱力してアグノスに身を預ける始末だ。

そして子供のように愚図りだす。

「う〜ん、もう少しこのままで〜」



アグノスは苦笑いをする。

「仕方ないですね、少しだけですよ」

プリームスの余りの可愛さに母性本能がくすぐられ、周りの事などアグノスはどうでも良くなってしまった。


王妃で理事長であるエスティーギアも、そんな二人を見て癒された様にホッコリする。

「フフフ、本当にプリームス様は可愛らしくいらして、もう1人娘が出来たようですわ」



何だかこの3人の空間だけお花畑のようである。



そんな様子を傍で見ていたバリエンテが、唖然とした表情で理事長へ問いかける。

「理事長とアグノス姫は、プリームスさんと随分親しいのですね。元々お知り合いだったのですか?」



キョトンとした顔の後、直ぐに真顔で答えるアグノス。

「プリームス様は私の伴侶です!」


そしてエスティーギアもアグノスに被り気味で答えた。

「う〜ん、義理の娘になるのでしょうか?」



余りにも予想外の返事に、バリエンテは驚きで硬直してしまった。

『王女の伴侶?! 女同士なのに??!!』

バリエンテには理解が及ばず混乱するばかりだ。



少し落ち着いたのか、又はアグノスに抱き着いて美少女成分を補充出来た為か、いつも通りの様子でプリームスは呟いた。

「おいおい、無用な事を言うでない。隠すつもりは無いが、あえて話す事でもなかろうに・・・」



配慮が足らなかったとばかりに、アグノスとエスティーギアは申し訳なさそうに俯く。

正直な話、王族が公式発表無しに闇に結婚していたなどと知れれば、大騒ぎになるのは間違いなかった。

しかも同性同士となると王族の権威が失墜すると言うものである。

その辺りの事情に配慮してプリームスは”無用”と言ったのだろう。



そしてそんな2人の状態を見てしまっては、他言できないとバリエンテは判断するしかなかった。

「い、今のは聞かなかった事にします!」



更にそれを聞いていた者が他に居たのである。

彼女は何故か少し怯えたような様子で、

「あうぅ・・・わ、私も聞かなかった事に!」

そう言ったのはメンティーラであった。




こうして魔法戦術連盟とヒュペリオーンの決闘に幕は下りる。



理事長の指示により野外演習場に集まった生徒達が解散していく中、バリエンテとメンティーラが取り残されるように佇んでいた。



バリエンテが溜息をついた後、諦めたように呟く。

「お互い、大変な相手と関りになっちまったな」


頷くメンティーラ。

「そうですね、とても恐ろしい方です・・・でも、優しくもありますね」



確かにメンティーラの言う通りだ。

赤の他人であるにも拘わらず、プリームスはバリエンテ達に手を差し伸べたのだ。

そしてその結果、バリエンテ達は決闘に勝利し学園に残れそうなのであった。

そう考えればプリームスはお人好しであり、優しいお節介屋さんと言えよう。


かと思えば人知を超える強大な魔法を操り、想像を絶する武力を誇る。

とても恐ろしい存在とも言えた。



「兎に角プリームスさんに呼び出されるまで、大人しくしているしか無さそうだな・・・」

そう言うバリエンテへ、メンティーラは同意するように無言で頷くのであった。


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