第171話・刃の嵐と火炎魔法
プリームスに抱きしめられ身動きが取れなかったメンティーラ。
しかし突如、全身の力を抜きプリームスの腕の中からすり抜けてしまった。
「おお!」
とプリームスは驚きの声を上げる。
割と本気で逃げられない様に抱きしめていたのだが、いとも簡単に抜け出されてしまった。
武を極めたプリームスが”真面目”に拘束したのなら、本来なら逃げ出せる訳などあろう筈がない。
正直、学園生徒相手にそこまでするのも躊躇われたは事実である。
だがメンティーラの身のこなしは、明らかに生徒水準を超えていたのであった。
故にプリームスは感心するように驚いてしまったのだ。
『やはり暗部の者なのは確定のようだな』
そう思いながらプリームスは笑みが零れる。
それは自身の洞察が正しいと確信したからではなく、メンティーラと立ち合えるのが楽しかったからだ。
この世界で、1対1の戦いにおいて優れている暗部の者と会うのは、死神アポラウシウス以来なのだ。
あの時はプリームス自身の疲労もあり戦いを楽しむ事が出来ず、しかもアポラウシウスを取り逃がしてしまった。
出来れば捕まえて色々聞き出したかった程である。
そう言う訳でメンティーラとの立ち合いは楽しもうと考えていた。
出来るだけ観察し分析する為に・・・。
そんなプリームスの笑みに再び苛立ちを覚えたメンティーラ。
それが怒りに変わり、何としてもプリームスを倒そうと意を決する。
『出し惜しみはしない、もう全力で行く!』
互いの距離は決闘開始時と同じく10m程に開いていた。
何かを仕掛けるのも、何かに対して対処するのも丁度良い距離と言える。
その絶妙な間合いでメンティーラは、突如両手を広げて言い放った。
「我、研ぎ澄まし百の刃よ・・・顕現し我が敵を滅する破壊の烈風となれ!」
その刹那、メンティーラの背後に無数の青白い刃が出現する。
その刃は50cm程の刀身のみで空中に浮遊し、その数は優に50は超えていそうであった。
観戦していた周囲の生徒は、その余りの異様さに言葉を失う。
たかだか魔術師学園の生徒の筈が、これほどに強大な魔法を操っているからだ。
宙に浮かぶ刃が魔力で形成された物で有ろが無かろうが、この数を制御している事自体が驚愕の事実なのである。
そして攻撃魔法と考えるならば、明らかに致死的な威力を秘めている様に見えた。
故に公式決闘の規則に準じるならば、最早これは反則で有り、魔法を放てば失格である。
それを即座に判断したアグノスは、上空で傍観している自身の母親に視線を送った。
しかし何も反応が無い・・・理事長は手出しをするなと暗に言っているのであった。
自身の愛する伴侶が危険に晒されている、そう思うとアグノスは居ても立っても居られ無くなる。
プリームスの実力は知っているが心配なものは心配なのだ。
堪らずプリームスへ視線を送るアグノス。
するとプリームスは楽しそうな表情を浮かべているではないか。
更にアグノスの視線に気付いていたプリームスは、
「手出しは無用だ」
そう告げる様に無言で小さく首を横に振ったのだ。
メンティーラは鋭い目つきでプリームスを見つめ言い放つ。
「私から何か聞き出したいのなら、力を示しなさい。それが私達の流儀よ!」
「フッ」と小さく微笑むプリームス。
「そうであったな。強さを示す事に意義を持ち、勝利こそが真理・・・だったか?」
そう呟いた後、特に構える事も無く無造作な姿勢で告げる。
「面白い、それが私に通用するか試してみるがいい。だが忘れるなよ、お前が屈したなら私の知りたい事を吐いて貰うからな」
次の瞬間、メンティーラの右腕が高らかに振り上げられ、即座にプリームスへ向けて振り下ろされた。
「吹き荒れよ、
メンティーラの叫びと共に無数の刃が、空気を切り裂く異様な音を立ててプリームスへ降り注ぐ。
誰もがプリームスの四肢に魔法の刃が突き刺さり、絶命する様子が脳裏に浮かぶ。
生徒達は目を背け、アグノスとバリエンテも目を伏せてしまった。
だが只一人、背けず目を見張った者が居る。
それは上空で決闘を見守る学園理事長のエスティーギアであった。
そして静かに呟く。
「素晴らしい・・・流石プリームス様です!」
甲高い耳障りな金属音が響き渡る。
何事かと恐る恐る試合場の状況を確認する生徒達。
そこには50はあろうか、無数の刃に囲まれたプリームスの姿が見て取れた。
メンティーラが放った無数の刃は、プリームスとの距離30cm程の空中で停止し、小刻みに震えている様に見える。
まるで目に見えない何かで阻まれているような、そんな不可解な状況だ。
プリームスは小さく溜息をつくと、
「まことに素晴らしい強力な攻撃魔法であるが、私には通用しなかったな」
そう言いパチンと指を弾いた。
その刹那、空中で停止していた百にも及ぶ魔法の刃が、硝子が粉々に砕けるが如く霧散してしまう。
呆気にとられる観戦していた生徒。
そして胸を撫で下ろすアグノスと、余りの出来事に驚愕し硬直してしまうバリエンテの姿が有った。
そうしてプリームスは、その場から一歩も動かずにメンティーラを見据えた。
「防御ばかりでは、お前が言う強さを示す事にはならぬか。ならば示すとしよう」
プリームスに告げられてメンティーラは顔色を変える。
そう・・・真っ青になり、無意識のうちに足は後ずさりしていた。
「なに、命まではとらん故に心配するな」
プリームスが微笑みながらそう言った瞬間、その頭上に直径10mは有ろうか巨大な火球が出現する。
詠唱も無く、これ程迄に巨大な火炎魔法を発現出来る者が、他に居るのだろうか・・・?
とてつもない魔法瞬発力、魔力強度、そして魔法技能。
どれをとってもプリームスは規格外で、人のそれを超えていた。
余りの熱量に周囲は顔をしかめ、恐怖と共に試合場から身を離してしまう。
あんな巨大な火球がメンティーラに直撃すれば、塵1つ残さず蒸発させてしまうだろう。
更にそれだけでは済む筈も無く、凄まじい爆発の熱と衝撃波が周囲を襲い、多くの怪我人と死者を出すに違いなかった。
今度こそ不味いと思い上空のエスティーギアを見やるアグノス。
理事長であるエスティーギアは、鬼気迫った表情でアグノスへ頷き返した。
「プリームス様! 駄目です! お止めください!! そんな魔法を放っては死人が出てしまいます!!」
余りの熱量にプリームスの傍に寄る事も出来ず、アグノスは叫び声を上げる事しか出来ない。
「フフフ、ハハハ! もう遅い! 発現した魔法を今更ひっこめる事など出来ぬわ!!」
まるで狂気の笑みを浮かべて告げるプリームス。
その姿は最早人では在らず、絶世の美しさを持つ魔神のようだ。
その恐ろしい姿を目の当たりにしたメンティーラは、へたりとその場にしゃがみ込んでしまい、
「わ、私の負けです・・・ど、どうか・・・命までは・・・」
と震える口でプリームスへ告げた。
すると残念そうにプリームスは頷く。
「そうか・・・」
そして頭上の巨大火球を見上げ、続けて右手を高らかに掲げると、
「やれやれ、本来はこういった使い方ではないのだがな。演出にと思い圧縮しなかったが、大き過ぎて邪魔でならん」
ぼやくように呟いた。
更に上空に居る理事長へ言い放つ。
「エスティーギア! そこは危ない故、降りて来るか離れるかするがよい」
危険なのは直ぐに理解出来たが、急に言われると戸惑ってしまうエスティーギアであった。
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