第130話・スキエンティアとプリームスの睦事(2)
風呂でイチャイチャしていては逆上せそうなので、プリームスは取り合えず湯舟から出る事にした。
そして吸水性抜群の大きな手ぬぐいで、身体をスキエンティアに拭いて貰う。
何だかご機嫌な様子で、スキエンティアがプリームスの世話をする。
いつもの事ではあるが、楽しそうで若干不気味である・・・。
普通、人は他人の世話など面倒でしたがらないものだ。
身体が拭き終わった後、髪の毛も丁寧に手ぬぐいで水気を取る。
そうしてプリームスは天蓋付きの大きなベッドに横になると、スキエンティアへ尋ねた。
「お前は私の世話をしていると、いつも嬉しそうだな・・・それとも他人の世話をするのが好きなのか?」
スキエンティアは温泉の湯で濡れた身体を手ぬぐいで拭いながら、
「他人の世話をするのは余り好きではありませんよ。プリームス様のお世話が楽しいのです」
と澄ました顔で言った。
そして粗方拭い終わると、プリームスの傍まで来る。
「プリームス様こそ、他人の面倒事ばかり抱えて来たように思えますが・・・。それに他人ばかり救って、ご自身は何も報われてはいないのでは有りませんか?」
そう言うスキエンティアの表情は少し物悲しく見えた。
プリームスは眉をひそめて訝し気にスキエンティアを見つめる。
「何が言いたい?」
真顔のスキエンティアは、プリームスの上へ覆い被さるようベッドの上に上がると、
「プリームス様こそ我儘になられれば宜しいでしょうに・・・。この世界に来てからも、クシフォス殿を救いその後の面倒まで手伝ってあげていますし。フィエルテも護衛としての建前はありますが、結局は彼女の業を引き受ける形になっていませんか?」
「それに・・・」
とクドクドと話し始めた。
良く回る舌でお説教紛いの事が始まると、中々止まらないスキエンティア。
内容が的を射ていているのが常なので、否定も反論もプリームスは儘ならないのだ。
故にプリームスは降参するしかないのである。
「分かった! 分かった! お前の話は長いし、耳が痛い! 一体どうすれば良いのだ?」
するとスキエンティアはニッコり微笑む。
「では我慢せずに嫌な物は嫌と仰って下さい。それと聞いて欲しい我儘があれば、素直に告げて下さい。些細な事でも私には隠さないで言って下さいませんか?」
覆いかぶさるスキエンティアの影がプリームスにかかる。
そしてその燃えるように赤い長い髪も・・・。
以前は自分の身体だったものが、今は目の前に別の人格を得て存在する。
不思議な感覚だが、それがまるで元からスキエンティアの物であったかのように感じてしまう。
そんなスキエンティアを見ていると、
『自分はもう昔の自分では無いのだな・・・』
そうしみじみと思ってしまう。
もう威厳など保つ必要も無く、多くの者達を導く義務も無いのだ。
「好き勝手しても良いのか? そんな私を見て、お前は落胆しないのか?」
プリームスは心配そうにスキエンティアへ問いかける。
安心させる為にスキエンティアは優しく口付けをした。
「私は貴女様の全てを愛しているのですよ。その程度の事では何も変わりません」
それから邪悪な笑みを浮かべて、
「もし今の状況がお気に召さなければ、私一人でこの国を滅ぼして無かった事にして差し上げますよ。人も皆全て根絶やしにして見せましょう」
その手でプリームスの頬に触れてそう告げた。
少し引いた様子でプリームスは嫌そうな顔をする。
「馬鹿な事を申すな、冗談にも程があるぞ・・・私に人で無しになれと言っているのか?」
「まさか・・・物の例えですよ。ですがプリームス様がハッキリ仰って下さいませんと、私が勝手に勘繰って暴走するかもしれませんよ」
そう言った後、スキエンティアは苦笑いを浮かべるのだった。
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