第83話・国王エビエニス(2)
プリームスは前代未聞のこの状況に頭を抱えそうになっていた。
それはアグノスが自身をプリームスへの褒美として提示してしまう事から始まる。
しかもそれを国王エビエニスは承諾してしまったのだ。
本来ならば王女を貰い受ける為に、プリームスが国王を説得するような場面である。
しかし状況は立場が逆転しているように思えた。
「プリームス殿に娘を託せば間違いが無いように私は思えたのだ。だから喜んで娘を迎えてはくれぬか?」
とプリームスを諭すようにエビエニスは告げる。
そう語る国王である父を見てアグノスは大喜びだ。
一国の王にここまで言わせて拒否すれば、納得させる程の理由が無い限り不敬に値するだろう。
そしてプリームスからすれば既にフィエルテが居る以上、更に1人や2人増えた所で変わりはしない。
割と大雑把なのだ。
しかしアグノス王女を貰い受けた為に、この国に縛られるのは御免被りたかった。
故にエビエニスの打算とやらを確認しておく必要がある。
「私に何を求めているのだ?」
そう率直にプリームスはエビエニスに尋ねた。
するとエビエニスは笑みを浮かべる。
「プリームス殿はクシフォスと友の間柄なのだろう? そしてポリティークの謀略と謀反を阻止したのも、友であるクシフォスの頼みだったからだと伺った」
更に感心するように続けた。
「褒美や地位、見返りを求めない其方の振る舞いに、私は感服した! 是非、私とも友となって欲しい。国王としてでは無く、一個人として!」
『クシフォスの奴め・・・メルセナリオ辺りに話さんでいい事まで話したな? メルセナリオから国王に筒抜けではないか・・・』
とプリームスは内心でぼやいた。
それに友人関係は、「なってくれ!」、「はい分かりました」と言うように簡単になるものでは無い。
互いの信頼関係が既に構築されていた場合に、自然と成り立ってしまう物なのだ。
詰まりこれは友としての建前の絆を作り、何か有れば"友なら助けてくれる"と言うエビエニスの打算なのだ。
爵位などの地位を貰えば、その国の一員になり縛られる事となる。
これは義務に値する。
だが王と友人関係になれば義務は発生しないが、義理が出来る。
お人好しのプリームスからすれば、これは中々に強い拘束力と言えた。
そもそも国王の娘を貰い受ける以上、そこは既に家族としての義理が生じている。
友に成らずともエビエニスに危機が訪れれば助けに行くだろうな・・・そうプリームスは自嘲する。
プリームスは溜息をついて頷いた。
そしてエビエニスに片手を差し出し言い放つ。
「地位や身分に左右されない、対等な友人としてなら歓迎しよう」
エビエニスは笑顔でプリームスの手を取り握手をかわした。
「ありがとう・・・新たな友よ、娘を頼むそ!」
握手を交わした掌の中に何かある事に気付くプリームス。
エビエニスが手を離すとプリームスの掌の上で、真紅に輝く金属で出来た指輪が露わになった。
「それは魔法金属である赤銀で作られた指輪だ。私が信頼する
そうエビエニスはプリームスの掌にある指輪を指して説明する。
するとクシフォスが自身の右手を見せるようにプリームスの前に差し出した。
その右手の中指には同じ真紅の指輪が通されている。
「俺も王の友だ。後はメルセナリオとレクスアリステラ大公のみが所持している」
と誇らしげにクシフォスが説明した。
プリームスはニヤリと笑むと冗談ぽく言う。
「オッサンばかりだな。若くて綺麗なのは私だけか・・・」
「はははっ!」と大笑いするエビエニス。
そして笑いの余韻を引きずりつつプリームスへ告げた。
「まぁそう言わんでくれ・・・それが有ればこの国で王族と同じ待遇をされる。私からの礼だ、大事にしてほしい」
少しだけ嬉しそうな表情を浮かべるプリームス。
「うむ・・・有難く頂戴しよう」
そう礼を述べつつ内心で少し驚き呟いた。
『それにしても
赤銀とは、同じ魔法金属であるミスリル銀よりも希少な金属だ。
地脈に蓄積した自然界の魔力を吸収し、長い年月をかけて結晶化した物と言われている。
そして一般的に産出が少なすぎる為、非常に高額な金額で取引が行われる。
それを加工した指輪を簡単に手渡すとは、流石一国の王と言うべきだろう。
プリームスが手渡された指輪を右手の中指に通し、その美しい深紅の色合いを眺めているとクシフォスがニヤつきながら言ってきた。
「これでプリームス殿も
「
と復唱しプリームスは首を傾げた。
ケラヴノスが畏まった様子で説明をし始める。
「王友とは、第三の称号です。これは爵位や役職、国家の権威をも逸脱したもので、その格は国王陛下と同等となります。故に聖女様はこの国で最も尊い存在となり、敬う対象となったのですよ」
露骨に嫌そうな顔をプリームスはした。
それを見たクシフォスは笑いを堪えるのに必死になりながら、
「くくっ・・・王が認めた同格の者、それが王友だ。民の視線には縛られるかもしれんが、国家の権威には縛られん。まあその程度だ、諦めろ」
そう嬉しそうに言い放つ。
人知れず自分勝手な人生を送る筈だった。
どこで道を誤りこうなってしまったのか・・・。
プリームスは項垂れるしかなかった。
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