第72話・目的は正道、手段は悪道
ポリティークの放った巨大な火球は、プリームスに届く事無く空中で霧散してしまった。
咄嗟に駆け寄りプリームスを庇おうとしたフィエルテは唖然として足を止めた。
そして火球に巻き込まれまいと後方へ跳躍したケラヴノスも、予想と異なる結果を目の辺りにして立ち竦む。
メルセナリオに至っては余りの光景に訳が分からず、声が出ない口をパクパクとさせるだけであった。
だが、たった一人だけが然も当たり前かのように言い放つ。
「プリームス様にそのような遅い魔法が通じる訳が無いでしょう」
それはスキエンティアの声だった。
プリームスは面倒臭そうにポリティークを見据えて言う。
「まぁ、そう言う事だ。無詠唱の魔法発動は素晴らしいが、そこからが遺憾な。自分の力を誇示したかったのかもしれんが、”今から魔法を放ちますよ”と相手に教えているようなものだ・・・そんなもの対処されて当然だろ」
動揺するようにワナワナと震えだすポリティーク。
そしてまるで
「い・・・一体、何をしたのだ?!」
「やれやれ」と溜息をつくプリームス。
「貴様が放った火球の中心核に直接魔力をぶつけて、魔法の発現を維持出来なくした。そんな事も分からんとは、南方諸国最強とはたかが知れているな」
年端も行かぬ儚げで美しい少女に、辛辣なセリフを浴びせられてしまった。
侮辱を通り越し、ポリティークは自身の未熟さと力の無さに打ちのめされてしまう。
そして独り言のようにブツブツと呟きだした。
「あぁ・・・どこで見誤った・・・時間をかけて準備して来たと言うのに・・・」
ポリティークのそんな様子を見てプリームスは再び溜息をついた。
『こ奴はもう駄目だな・・・早々に拘束して吐かせた方が良さそうだ』
そう思い玉座の方へ歩み出す。
すると突然我に返ったようにポリティークは後ろへ走り出した。
逃げたのではない、アグノス王女の元へ駆け寄ったのだ。
周囲に居た騎士達を押しのけて、ポリティークはアグノス王女に言い放つ。
「王女殿下!いや、アグノス姫! 私を愛してくれているのだろう!? 私を信用してくれ! そして助けて欲しい!!」
怯える様にポリティークを見つめるアグノス。
「・・・・確かに私は・・・貴方を愛して”いました”。ですが今の貴方は何も信用出来ず、私の愛を捧げるに値しません!」
その言葉を聞いたポリティークは力なく呆然と立ち竦んでしまう。
『これはまた盛大に振られたな。それにしても保身の為に女を頼るとは情けない奴だ』
プリームスはそう思いポリティークに対して嫌悪感が沸き上がった。
そしてゆっくりとポリティークへ歩を進め、
「貴様への疑惑は、貴様自身がこの謁見の間で行った行動で更に深まった訳だ。もう諦めろ、皆、貴様が何か企んでいると確信しているぞ」
そうプリームスは無慈悲に言い放つ。
ケラヴノスは剣を抜き放つと、その切っ先をポリティークへ向けた。
「ポリティーク宰相代行! 抵抗を止めて大人しくされよ。取り調べは私が自ら行おう、よろしいな!」
そう言った後、プリームスへ視線を向ける。
「ボレアースの聖女とは知らず、数々の無礼をお許しください。この謝罪は必ず致しますゆえ、今は取り調べにご協力願います」
と申し訳なさそうに告げた。
プリームスはぶっきら棒に答える。
「協力は惜しまんが・・・国王が病に臥せっておるのだろう? 先にそちらを処置した方が良いのでは?」
すると逡巡した後にケラヴノスは頷く。
「そうですね、貴女の言う通りだ。ではポリティーク宰相代行を拘束次第、アグノス王女とご一緒に陛下の元へ向かいましょう」
「きゃッ!??」
謁見の間に女性の悲鳴が響き渡った。
そこに居合わせた全員の視線が、その声の主に注がれる。
その悲鳴の主は、ポリティークの腕に束縛されたアグノス王女のものであった。
慌てて駆け出そうとするが必死に思いとどまるケラヴィノス。
無暗に動いて王女の身が危険に晒される事を恐れたからだ。
「ポリティーク! そこまで落ちたか!!」
ポリティークは狂気の瞳を浮かべて言い放った。
「お前達は分かっていない。平和に浸り安穏と暮らす事で危機感を失いつつある事を・・・。このままでは西方東方の勢力に脅かされる時が必ずやって来る。そうなった時にはもう遅いのだ! 故に私が王となり導こうと言うのに!!」
プリームスは呆れたように言う。
「自分から化けの皮を剥いだか。しかし頭が固い奴だな・・・王に成らずとも覇道を進む道など幾らでもあると言うのに。分かっていないのは貴様だ、この青二才」
この急展開にポリティークの直属の騎士達も呆然と見守るだけだ。
しかしケラヴノスはプリームスの発言で、ポリティークを刺激してしまう事を恐れた。
「聖女殿やめてくれ・・・それ以上刺激するのは・・・」
と焦る自分を何とか押しとどめてプリームスへ告げる。
しかし遅かったようだ。
激昂したポリティークは左腕でアグノス王女を拘束したまま、右手で腰の短剣を引き抜いた。
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