第三章:謀略の王都

第59話・王都エスプランドル

プリームスの魔法で一気に王都へ向かうにしても、その王都の何処へ出るのか決めていなかった。


それをスキエンティアに突っ込まれて愛想笑いで誤魔化すプリームス。



スキエンティアは仕方なくクシフォスへ言った。

「クシフォス殿、王都には貴方の邸宅があるのですよね? 詳しい外観と王都のどの辺にあるのか、説明して頂けませんか?」



つまりここに居る全員が転送する先をクシフォスの邸宅にしようと言う訳だ。



それに気付いたクシフォスが収納機能があるブレスレットから王都の地図を取り出した。

なんとも用意の良い事だ。


「必要になると思ってな、王都の要所が記された地図を持ってきておいた」

そう自慢げにクシフォスが告げる。



そしてその地図をテーブルに広げ説明を始めた。

「王宮自体はかなり大きい。戦時を想定して建設された為、1,5km四方を高い城壁に囲まれている。いわゆるこれが内郭に当たる」


さらにクシフォスはその外側を示す。

「その王宮を囲む様に広がっているのが外郭になり、そこに主要な軍事的、政治的な施設がある。また俺のような人間の邸宅、貴族の屋敷などもここに建っているぞ」



その外郭部分もかなり広く、城下町を隔てる様に巨大な城壁が設置されているようだった。

少し感心するようにスキエンティアが言った。

「まさに城塞都市ですね・・・ところでクシフォス殿の屋敷はどこに?」



クシフォスは王宮に近くにある一番広い敷地を指した。

「ここだ。まあ一応大公だからな、屋敷も警備上の都合、高い壁に囲まれておる。情緒が無くてな・・・息が詰まる」



また王宮が近いだけでなく、軍の主要施設である軍司令本部も近くに有った。



プリームスは突然ガウンを脱ぎ捨てて下着姿の姿になった。

そしてまるで、阿吽の呼吸のようにフィエルテが傍にやってきてプリームスに衣装を着せる。


斥候エクスプローラートルを使っている間に、受付に鍵を返してくるといい」

そう言ってプリームスは収納魔道具の指輪から、2cm程の真っ赤な宝石を2つ取り出した。



フィエルテから今居る部屋の鍵を受け取り、クシフォスは慌てて部屋を出て行く。



真っ赤な宝石の1つを右手に持ち、もう1つを仮置きする場所が無かったのかプリームスは胸の谷間に挟んだ。

そうして斥候エクスプローラートル発動させる。



次の刹那、プリームスの右手に握られていた宝石が、甲高い金属音を立てて砕けその手から破片が溢れ落ちた。

そして真っ赤な宝石だった物は色を失い、只の小さな砂利のように床に散らばる。



更に魔方陣が床に展開したかと思うと一瞬にして消失し、黒い脈動する球体がプリームスの眼前に発現した。



フィエルテが不思議そうにその光景を見つめて呟く。

「その宝石は一体・・・」



「これは私の魔力を蓄えた魔晶石だ。砕け散ったのは、私の魔力の代わりにこの魔晶石の魔力を使い切った為だよ」

そうプリームスが説明すると、黒い球体は高速で部屋の窓から飛び出して行ってしまう。



集中するようにプリームスは瞳を閉じる。



暫くして息を切らしたクシフォスが部屋へ戻って来た。

そのクシフォスにスキエンティアが睨みを利かせる。

「静かにしろ」と目配せしたのだ。



蛇に睨まれた蛙のように硬直するクシフォス。



そうして2分程過ぎるとプリームスが告げる。

「飛ぶぞ、皆私の傍に集まれ」

その右手には先程胸の谷間に挟んだ、2個目の真っ赤な宝石が握られていた。



迅速に、そして慌てずプリームスの傍に集まる一同。



プリームスは古代マギア語で呟く。

「打ち込みし楔の元へ誘え・・・転送メタファー



プリームスの右手に握られた宝石が音を立てて砕けたその時、4人の息吹は一瞬にしてその部屋から消失した。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






闇の支配から解き放たれたプリームス一向は、綺麗に刈り揃えられた芝生の上に立っていた。

時刻は夜の8時を回ったところで、湿り気を帯びてはいるが冷たい夜風がプリームスを撫でる。



ボレアースやポサダの町に比べると、ここは随分湿度が高いように思える。

『ひょっとして海が近いのか?』

そう思いプリームスは風の匂いを嗅いだ。


微かだが潮の匂いを感じる。

『南方諸国を束ねる議長国との事だが、大きな港でも有しているのだろうな』

そうプリームスは洞察した。



それは詰まりこの国が地上の貿易だけではなく、海に強固な貿易航路を持っていると言う事になる。

貿易が盛んで経済力がある国家は軍事力も強大だ。

故に南方諸国最大の国家なのだろう。



「皆俺に付いて来てくれ! 屋敷の者は俺の極秘な帰還を知らないしな」

クシフォスが建物の方へ歩き出しながらプリームス達へ告げた。



この国の首都の情景を洞察し思いを馳せていたプリームスは、それを中断されて少し不機嫌だ。


『まぁ急かしたのは私だしな、仕方無いか』

そう自分を納得させたプリームスは、よく手入れされた大公邸宅の中庭を2人の美しい従者を連れて歩き出すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る