第48話・王都への移動手段

「クシフォス殿はフィエルテを手に入れる切っ掛けを作ってくれたからな。それにこれから先、この地に不慣れな私は貴殿を頼る事も度々あるだろうし・・・」

と前振りをするプリームス。



するとクシフォスの表情がどんどん明るくなっていった。

「で、では?」



プリームスは溜息をつくと、

「クシフォス殿はこの地に来た私の一番最初の友人だ。この縁は大事にしたい」

と更に焦らした。



「うんうん・・・ならば?」

とがっついて来るクシフォス。


しかし残念そうにプリームスは俯く。

「だが私はもう政治や国同士の諍いなどにはかかわりたく無いのだ。私は私自身の人生を歩みたい・・・」



それを聞いたクシフォスは谷底に転落したように真っ青な表情になった。

「・・・・・」



笑いを堪えるスキエンティアとフィエルテ。

2人を見たクシフォスが訝しむ。


するとスキエンティアが呟いた。

「プリームス様・・・御戯れが過ぎますよ」


フィエルテはクシフォスを見て言った。

「プリームス様はそんな事を言う方ではないですよ。そう思いませんか? クシフォス様」



訳も分からず呆然とするクシフォス。



プリームスは笑いを堪えながら、何とか本心を口にした。

「すまんすまん・・・冗談だ。まぁしかし、政治事に巻き込まれるのが嫌なのは本心だ。それでも友人を放っておく程、私は薄情ではないよ」



「では?!」と再びクシフォスの表情が明るくなった。



『クシフォス殿は子供の様に表情がコロコロ変わるな』

そうプリームスはほくそ笑む。

そして答えた。

「ああ。乗りかかった船だ、最後まで付き合おう」



「ありがとう・・・プリームス殿・・・」

そう言ってクシフォスは深く頭を下げた。

下げた位置が悪かったのか、その額がテーブルに置かれた料理に直撃してしまう。


「あ~こらこら! 勿体ない・・・」

プリームスはドジっ子なクシフォスにぼやきながら食事を進めた。



一方、傍で見ていたスキエンティアとフィエルテは爆笑中だ。



何と言うか面白い奴らだな、とプリームスは思う。

クシフォスは脳筋だが、憎め無い性格で牽引力がある。

フィエルテはお色気担当?・・・これはプリームス視点でだ。

そしてスキエンティアは・・・小姑的な?


そんな馬鹿な事を考えながら平和なひと時を満喫する。

するとクシフォスがナプキンで顔を拭いながらプリームスへ訪ねた。

「して、これからどうする? 明日予定通り王都へ向かうのだな?」



プリームスはワインを一口呷ると、

「うむ・・・だが状況が思ったより深刻かもしれん。食事が済み次第、直ぐに王都へ向かった方が良いだろう」

まるで他人事のように言った。



「え?」 

「食事の後に直ぐか?!」

「さ、左様で・・・」

とプリームス以外の3人が驚いた様子で呟いた。



「隣国の謀略・・・この場合、個人の企みとは思うが、そんな事で自国を掻き回されたくないだろう?」

そうプリームスがクシフォスに問うた。



クシフォスは難しい顔をして考え込む。

「しかし俺は実際に、どうすれば良いのやら・・・」


呆れた表情でプリームスはクシフォスを見やった。

「おいおい、何の為に私も付いて行くと思っているんだ? まずは王都に着いて、それから状況を見て私が提案と助言をしよう」



「何から何まで・・・すまない!」

クシフォスはそう言ってまた頭を下げた。



プリームスは小さく手を振ると、

「構わん、気にするな。その代わり私が何かしたい事が出来たら、その時は協力してもらうからな」

クシフォスに告げて笑顔を浮かべた。


「勿論だ! 大公である事を最大限に活かして、何でもしてやるぞ!」

などと変な方向に張り切りだしたクシフォス。



プリームスは嫌そうな顔をする。

『まぁ、余り期待しないでおくか・・・』



「この後に直ぐ王都に向かうのは良いのですが、100km近くある距離は少しキツイですね。移動手段はどうされますか?」

スキエンティアはもっとな事を、クシフォスとプリームスを交互に見やって言った。



クシフォスは直ぐに答えた。

「馬だ。随員や諸々の荷物を考えれば馬車も使う事になる」



それを聞いてスキエンティアは考え込むと、

「馬車では時間がかかり過ぎませんか? 出来るだけ急いだ方がよろしいのでは?」

そう心配そうにクシフォスへ言った。



フォークとナイフを静かに置くプリームス。

そしてスキエンティアに同調するように、

「そうだな、死神アポラウシウスの動きも気になる。依頼主からこの町の件以外にも"請け負っている"可能性があるからな」



2人から難色を示されて困り切った様子のクシフォス。

「そう言われてもな・・・他に移動手段がない」



「"あれ"を使う」

とプリームスが呟いた。



何の事か気付いたスキエンティアが首を横に振る。

「駄目ですよプリームス様! あの魔法は今のお身体では負担が大き過ぎます。そもそも単身で使う物を、数人で使う事自体間違っていると言うのに・・・」



クシフォスも同意見のようで、

「俺の為に急いでくれるのは嬉しいが、無理をされては困る」

と渋るように言った。



傍で話を聞いていたフィエルテが、良く分からずに不安そうに首を傾げる。

「あの〜、何か揉めておられるようですが、私にも分かるようにご教授願いませんか?」



確かに"身内"となったフィエルテをったままなのは良くない。

そう考えつつプリームスを見やるスキアンティア。


すると当のプリームスは素知らぬ顔でワインを飲んでいるではないか・・・。

少しイラっとして小姑癖が発動しそうになったが何とか堪える。



『やれやれ、ご自身が見付けて来た従者ですのに、私に丸投げとは・・・』

とスキエンティアはぼやくも説明する事にした。

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