第41話・客観的な主と従者の強さ
プリームスが気を失うように眠りに落ちてしまった為、話が途中で止まってしまった。
それでもクシフォスが聞きたかった事は殆ど聞けたので、一旦お開きにして一向は屋敷に戻る事にする。
勿論フィエルテを連れて。
そうなるとタクサからフィエルテを引き離してしまう事になる。
フィエルテの臣下を自称していたタクサだ、忠誠を仰ぐ対象と引き離されては悲しむに違いなかった。
しかしこれに関しては、隣国の王女の臣下がクシフォスの領地で奴隷商を営んでいる・・・この事実を聞かなかった事にする約束で御破算になった。
タクサにしてみてもフィエルテの命を超常の魔法で救った者に託せる訳だ。
自身の傍に置いて朽ち果てさせるより、余程良かったと言えた。
帰り道の馬車の中、プリームスの事が随分気に入ったのか、フィエルテはずっとプリームスを抱き締めたままだった。
何にしろ腕利きの従者が一人増えたのだ、クシフォスとしても奴隷商に案内した甲斐が有った。
「この姫はな、中々の強さだぞ。俺と1対1で戦える数少ない者の一人だ」
そう誇らしくクシフォスが言いだす。
「ほほう」と少し興味が沸いたスキエンティア。
フィエルテは困った様子でクシフォスを見やった。
「クシフォス様、やめてください。全力を出されたら私では5分も持ちませんよ」
ニヤリとクシフォスはフィエルテに笑い返す。
「それでも5分やり合えるのだから大した物だぞ」
「う~ん・・・」と少し思案する仕草でスキエンティアが唸った後、
「私はクシフォス殿の実際の強さを知りませんからね、2人に対しての評価はしかねます。つまり実際に見せて戴かないと」
などと言い放った。
これは自身の強さを示せと言う挑発である。
並みの相手ならクシフォスも一喝して黙らせるところだが、相手は”スキエンティア”なのだ。
クシフォス自身もその強さを目の辺りにしているのだった。
今度はクシフォスが唸り出した。
「う~む、これは困ったぞ・・・恐らく”この地上で最強”ではないかと思える御仁に、それを示すのは中々困難な事だぞ」
クシフォスのその言い様に驚愕するフィエルテ。
「え?!それは・・・冗談などでは無くてですか?」
「無論だ。スキエンティア殿は混沌の森に生息する10m級の地竜を、汗一つかかずに剣の一振りで首を落としてしまうのだぞ。そんな真似が出来る人間を他に知っているか?」
とクシフォスは思い出したのか顔を青くして語った。
とても信じ難い事を告げられ、てフィエルテは開いた口が塞がらなかった。
地竜と言えばよく訓練された兵でも10人以上で対処する魔物である。
しかも10m級となれば更に危険が増し、後衛からの援護なども含めて倍以上の人員は必要とされていた。
それをたった1人で、しかも一刀の元に地竜の首を
人間業とは思えなかった。
そんな2人のやり取りを見ていたスキエンティアがポツリと呟いた。
「プリームス様は私よりお強いですよ」
同時に目を見張りスキエンティアを見やるクシフォスとフィエルテ。
「な、な、何と?!」
「ええぇ?!」
2人が驚いた様子をスキエンティアは不思議そうに眺めていた。
プリームスが自分より強いのは当たり前であり当然の事なのだ。
故に、その驚き加減が不思議でならないのだった。
しかし少し考え直すスキエンティア。
今のプリームスは触れれば、散ってしまいそうな儚げな存在に見えてしまうのは確かだ。
それが更に美しさに拍車をかけている。
スキエンティアはその”美しさ”にのみ目を奪われていたのだ。
”触れれば散ってしまいそう”
”儚げな存在に見える”
この2点がプリームスを弱く見せているのは確かかもしれない。
『ならば補足が必要か・・・』
そうスキエンティアは考え説明しだした。
「プリームス様は剣術のみならず、あらゆる戦闘技能を網羅されたお方なのです。純粋な戦闘技術のみで戦えば、私はプリームス様の足元にも及ばないでしょう」
ジッと聞き入るクシフォスとフィエルテ。
その様子を確認してスキエンティアは話を続けた。
「ですが今のプリームス様はお身体が不安定で、肉体的な強度に問題があるのです。長時間に渡る戦闘なども不可能と言って良いでしょう。故に色々な不確定要素も含めて、私が傍にいてお守りしなければならないのです」
深く考え込む様子でフィエルテは呟いた。
「なるほど、そんな事情が・・・」
一方クシフォスは思い出したように突然言い放つ。
「それでもプリームス殿は単身でアポラウシウスを撃退したのだろう?」
再びフィエルテは驚愕し目を見開いた。
「えぇえ!? あの死神アポラウシウスをですか?」
頷くクシフォス。
「うむ。昨晩の話でな、しかも体調が芳しく無かった状態で撃退せしめたのだ。本人は万全であれば捕らえる事も可能だったと言っていたな」
フィエルテは感心し感動した様子で、己の腕の中で眠るプリームスを見つめた。
「魔術だけではなく、本当に凄いお方なのですね・・・」
「フィエルテさん、貴女を仲間にしたのは、私がお傍に居られない時に守って欲しいからなのです。昨晩の様に私が単身で行動する事が必ず今後も出てくるでしょうから・・・」
そうスキエンティアはフィエルテを見つめて言った。
それを聞いたフィエルテはゆっくりと、そして力強く頷いた。
「こんな私でもプリームス様のお役に立てるのなら、微力を持って尽くしたいと思います」
『微力では困るのだ・・・』
スキエンティアは頭脳を目まぐるしく回転させた。
フィエルテを自分に近い強さまで引き上げる・・・その方法を模索する為に。
『先は長いかもしれないが、まずは己の”弱さ”と”強さ”を知ってもらうとしようか』
そう考え、スキエンティアは自分も昔はプリームスにそう思われていたのか?、と自嘲してしまうのであった。
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