第22話・淑女としての嗜み
クシフォスとの会話を楽しんだ後、プリームスは大事を取って再び身体を休める事にした。
そして瞳を閉じると直ぐに微睡がやって来て、気が付けば朝になっていた・・・。
のそのそとテントから這い出るプリームス。
テントから少し離れた位置にある木に、もたれて眠っているクシフォスの姿が見て取れた。
時刻は朝の7時。
そろそろ出発の準備をした方が良い時間だ。
立ち上がりプリームスが辺りを見渡すと、丁度テントの裏側でスキエンティアが湯舟に水を張って、下から火をかけている処だった。
この湯舟はプリームスが作った物になる。
以前いた世界で、
魔界は広く遠征や交渉事で遠出すれば、1,2カ月帰れないなどざらであった。
男なら適当に水場で身体を洗えば良いが、魔界の頂点に立とうという者が、しかも女性がそんな事をする訳にもいかなかった。
それに元々綺麗好きなプリームスとしては、毎日湯あみをしたいくらいだ。
そこでプリームスが作ったのがこの簡易の湯舟な訳だ。
持ち運びに関しては収納魔法が施してある装備に納めるので問題は無い。
スキエンティアがプリームスに気付く。
「陛下・・・お目覚めですか。今湯あみの準備をしておりますゆえ、少々お待ちください」
本来、プリームスの軍師であり副官であるスキエンティア。
それなのに今は従者の様にプリームスの世話を焼いてくれる。
他に世話を出来る人員が居ないという事もあるが、何だかスキエンティアは楽しそうに見えた。
スキエンティアは元々世話好きな性格ではある。
だが、ここに来てからは他に仲間や部下が居ない為か、スキエンティアのプリームスに対するスキンシップが激しくなっているような気がする。
『そんなに私の事が好きなのか・・・?』
と、ついぼやいてしまうプリームス。
そしてそう思うのは自惚れなのか?、とも思い自嘲してしまう。
暫くしてスキエンティアが傍までやって来ると、
「丁度良い湯加減になりましたので、さぁ、クシフォス殿が起きぬうちに」
そう告げ、軽くプリームスの背中に手で触れた。
促されるまま湯舟の近くまで来ると、スキエンティアはプリームスのマントを脱がし、更にワンピースまで脱がしにかかった。
プリームスは少し気恥ずかしい気持ちになったが、流石に止めろとは言えずスキエンティアの好きにさせる。
何しろ従者がいる時は、全てさせていたのだからスキエンティアだけ駄目とも言えない。
結局素っ裸にされたプリームス。
そして同じく素っ裸になるスキエンティア。
少し慌ててプリームスはスキエンティアに突っ込む。
「何でお前も裸になるんだ!?」
スキエンティアはキョトンとした顔で言い放つ。
「え・・・陛下の身体を洗う人間が必要でしょう? 服のままでは濡らしてしまいますし」
そうして自分の胸に手を置き、然も当然に続けた。
「それにこのお身体は元々陛下の物であります。預かる身としては綺麗にしておかねばと思った所存で、故に一緒に洗わせて頂きます」
流石、我が軍師・・・ペラペラと良く舌が回る。
要するに一緒に風呂に入りたいだけなのだろう。
そう思いつつも口に出さないプリームス。
特に咎める理由でもないのと、言えば良く回る舌で再び言い返されるだけで五月蝿いからだ。
スキエンティアとの付き合いも既に50年を超えている。
そうなればプリームスの為人もスキエンティアは良く熟知していた。
黙ってしまったプリームスを見てスキエンティアはほくそ笑んだ。
『陛下は本当にお優しい。普通いくら信頼関係が取れた仲でも、部下にこんな好き勝手させませんよ・・・』
スキエンティアは用意していた石鹸を手に取り、よく手で泡立ててからプリームスの身体に触れた。
先ずは手、腕と洗う。
そして足、ふくらはぎ、太ももと丁寧に洗ってゆく。
さらに身体の中心へ向かい洗い進める。
背中から抱きすくめるようにスキエンティアは、プリームスの胸や腹、脇腹などを優しく触れる。
少しマッサージも込めて洗ったものだから、プリームスから何とも言えない声が洩れた。
「あうぅ・・・」
そんなプリームスの声を聞いて年甲斐もなく胸が高鳴るスキエンティア。
ただ主人の身体を同性が洗っているだけなのだが、何だかいけない事をしている錯覚に陥ってしまう。
調子に乗って好き勝手に洗ってしまった所為か、プリームスは悶絶してしまい、
「や、やめ・・・くすぐったいから!」
と言い力無く項垂れた後、泣くのを我慢した子供のようにスキエンティアを睨みつけた。
これはやり過ぎたと思いスキエンティアは慌ててプリームスから手を離す。
プリームスは恥ずかしそうに俯くと、
「もっと丁寧にしろ・・・」
と呟くように告げた。
それを聞いたスキエンティアは畏まった様子で、プリームスの背中を優しく洗い始めた。
少しお叱りを受けてしまったが正直なところ、プリームスの普段見れない仕草が見れて大満足のスキエンティアであった。
その後は、スキエンティアが調合した手製の洗髪剤を使ってプリームスの髪の毛を洗う。
石鹸もそうだが、プリームスの肌や髪の事を心配をしてスキエンティアが素材から厳選し調合した物なのだ。
プリームスの洗いが済むと、
「次はお前を洗ってやる」
そうスキエンティアに言うプリームス。
スキエンティアは恐縮して、
「滅相も無い! 家臣の身体を主人が洗うなど有り得ません」
プリームスはスキエンティアの尻を平手でバシッと叩いた。
「ひゃぁっ!」とスキエンティアは情けない声をだす。
「その身体はそもそもが私の身体で、お前に預けているだけだ! 自分の身体を洗って何が悪い!」
と強気にプリームスは言い張った。
見た目が可愛らしいだけに迫力が全く無い。
渋々プリームスに身体を洗われるスキエンティア。
だが満更でもなく、少し嬉しそうな顔をする。
「へ、陛下・・・もっと優しくお願いします・・・」
「変な印象に聞こえる言い方をするな!」
と言ってプリームスは再びスキエンティアの尻を叩いた。
「きゃっ!」とスキエンティアは悲鳴をあげる。
そして溜息をつくとプリームスは、
「元々自分の身体だったとは言え、完全に別視点からだと感慨深いものがある。それに何と言うか・・・男には見せたくないな」
と独り言のように言った。
スキエンティアの髪の毛も洗い終え、二人でゆっくりと湯舟に浸かる事にした。
湯舟は二人で入ると若干窮屈だ。
と言う訳でプリームスは、スキエンティアに後ろから抱きかかえられる様に湯舟に入る。
結果、スキエンティアに抱き着かれてしまう始末だ。
裸の自分の身体に抱き着かれると言う、普通なら有り得ない状況。
自分の身体がこんなに柔らかくて暖かいとは思いもしなかった。
「けしからん身体だ! おいそれと裸を他人に見せるで無いぞ」
と意味の分からない事を言い出すプリームス。
スキエンティアは少し慌てた様子で答える。
「も、勿論です! ですが、今の陛下も十分過ぎる程に扇情的であります・・・僭越ながら他人には目の毒かと・・・」
プリームスはニヤリと笑う。
「何だ? 独占欲か? 心配するな、こんな無防備な姿を他人に晒せる訳が無かろう」
敬愛する主に見透かされてスキエンティアは狼狽する。
「さ、左様で・・・」
そんな二人の様子を見てはいけないと、目を背け狸寝入りをするクシフォスが居た。
『早く湯あみを済ませて服を着てくれ・・・』
そんな心の声が聞こえそうだった。
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