第6話・身なりと状況把握
とりあえず、スキエンティアの衣服や装備を一新する事にした。
出来るだけ派手さは控えて、色は黒やグレーで統一する。
レザーのピッタリとしたズボンと、上はキャミソールにズボンとお揃いのジャケットを選んだ。
そしてフード付きの黒いロングコートを羽織らせる。
基本的にいつもフードを被らせるつもりだ。
身を守る武器も必要なので、無難にロングソードを1本とショートソード2本、ダガーを数本スキエンティアに装備させる。
と言ってもスキエンティアは魔法が使えるので、武器は必要無いかもしれない。
だが新天地で何が起きるか分からないので念には念をだ。
次にプリームスは自身の衣服と装備を選ぶ。
2人とも地味にするのはバランスが悪いと思い、少し明るめの物をと考えるプリームス。
理由はスキエンティアを、付き人兼護衛役として扱う予定だからだ。
地味にしてしまうとプリームスに威厳が無くなり、主従関係なのか姉妹なのか、はたまた親子なのか分からなくなってしまう。
親子は流石に無いか・・・とプリームスはほくそ笑む。
結局選んだ服は、漆黒の膝上丈ワンピースだ。
美しい銀の糸で刺繍が各所に施されていて、シックだが非常に高貴に見える。
派手めの明るい色にするつもりだったのだが・・・。
何故こうなったかと言うと、プリームスの依代である複製体の色素が薄過ぎたからだ。
髪の毛というか、体毛が全て真っ白な上、肌も透き通るように白い。
自身の細胞を使用したにも関わらず、燃えるような赤髪では無く真っ白な髪。
恐らく色素に関しての遺伝子的な突然変異が起こったか、欠損が有ったのかもしれない。
ただ瞳だけは同じ真紅だった。
どちらにしろ似合う衣装が限られてしまう。
本来の自分より神秘的な雰囲気にはなったが、それはそれで困るというものだ。
ワンピースだけでは心許ないので、ウィッチローブ風のグレーのマントを羽織る。
勿論フードも付いていて、ワンピースと同じく美しい刺繍が黒糸で施してあった。
足元は、黒のショートブーツだ。
武器は護身用で軽いレイピアを腰に下げておく。
実際、何かあっても直接戦うつもりは無い。
最強の戦闘力を持つ魔王の肉体を、スキエンティアに預けているのだから・・・もし戦闘になれば、スキエンティアに任せればよいのだ。
また杞憂になれば良いのだが、気になる事があった。
それは今の体で以前のように魔法を使用出来るのかどうかだ。
これは落ち着いてから試すしかないだろう。
更に確定的な問題にプリームスは気付く。
肉体が以前のものより貧弱なのだ。
詰まる所、普通の人間と同じかそれ以下な程か弱い。
無理をすれば簡単に腕が折れたり、手が砕けたりしてしまう可能性があった。
故に物理的な荒事が有れば、スキエンティアに任せるしかない。
そう考えつつスキエンティアの様子を伺うと、ロングソードを軽快に振り回していた。
肉体を失って15年もの間、インテリジェンスアイテムとして過ごして来たのだ。
久しい肉体の感触や感覚を試したくて仕方ないのだろう。
それにしてもスキエンティアは中々に剣の扱いが上手いとプリームスは感心した。
プリームス程では無いが、それでもその剣の技術はマギア・エザフォスで五本の指に入る。
しかも魔術に関してはプリームスに師事していた経緯があり、相当な実力だ。
その上、魔王の肉体を得てしまったので、総合的な戦闘力で言えば最早最強と言っても過言では無い。
ジッとスキエンティアを見つめていると、プリームスは妙な感覚に捕らわれた。
『自分自身を見つめるとは、奇妙な物だな。それに・・・』
魔王であった自分は、このように他者から見られていたかと思うとムズ痒い気持ちになる。
自分で言うのも何だが、美しい容姿だと思う。
それ故、自分を慕ってくれた者は数多く存在し、手籠めにしようと寄り付いて来る者のいた。
しかしそんな輩は片っ端から吹っ飛ばしてやったものだ。
そして最後には見た目では無く、プリームスの為人に惚れた者だけが残った。
嬉しい限りだった。
今のこの依代も外見だけで言えば、かなりの高水準のように思えた。
ここが何処なのか全く分からないが、これから出会う者達はプリームスにどういった態度を取るのか少し楽しみでもある。
この外見に惑わされプリームスに踊らされるのか?
それとも為人を見極めようと、逆にプリームスを試してくるかもしれない。
どちらにしろ、それは人の存在を確認せねば何も始まらない。
そういう訳で周辺の捜索をプリームスは始める事にした。
プリームスは肉体の魔法に対する感度、強度、練度を調べるべく飛行魔法を使用する。
上空から周辺も確認できるので一石二鳥である。
「
目標の上空まで瞬時に到達した。
高度は20m程で、今のところ魔力消費による急激な虚脱感は無い。
では左右に飛行してみてはどうか?
自分が想定していた以上に速度が出て少し驚くプリームス。
だが何かおかしい・・・。
そう思った時には、遅かった。
急激な虚脱感がプリームスを襲い視界が暗転した。
上空20mから落下して地面に叩きつけられれば、この脆弱な肉体ではひとたまりも無いだろう。
『まさか死の危機から脱して直ぐに、自ら死に飛び込んでしまうとは・・・』
自身の肉体となる依代が15歳と若いため、魂まで影響を受けて若返ってしまったのかとプリームスは自嘲した。
そして半ば諦めかけた時、柔らかい感触がプリームスを包んだ。
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