ここがハイラ村……

「マーシャー、ハイラ村には何があるの?」

「ハイラ村か…… 父上が何か言っていた気がするが覚えていないな」


 ハイラ村へと森の中を歩きながら私たちは情報交換をしていた。

 マーシャいわく遠出は泉まででその先はあんまり知らない、とのことだった。


 自分の国なのにそれでいいのかな……


「ナミは大丈夫、じゃないか……」

「足の筋肉がぁぁぁ、ニャ」


 ナミは度重なる飛翔スキルの使用で足が限界のようだ。 魔力が無限でも肉体を使えばその分の疲れは出るようで今は私の水の力で地面をすべるように移動させてあげた。 

 ボールにするのではなく地面には這わして人口の波を作って押すことで簡単に移動できることが分かった。


 見た目は不格好だけど楽そうでいいなあ。


「快適ニャァ」

「狼さんと仲良くね」


 ナミは耳で反応するとすやすやと寝てしまった。


「ところで海凪よ、ナミとはどういう関係なのだ?」

「どうもこうも家族みたいなものですよ」

「そうか、同じ種族なのだから当たり前か。 つまらない質問ですまないな」

「いえいえ」


 マーシャは納得したのかあくびをして歩き続ける。


 同じ種族っていうか元は人間なんだけどね…… ややこしくなりそうだから言わないけどね。




「見えてきたな、あれがハイラ村だ」

「なんか思ったよりこじんまりとした村だね」


 村の入り口には細い木で作られた門らしきものしかなかった。 他はと言うと別段柵があるわけでもなく堀があるわけでもない。


 ここがハイラ村なんだ…… なんだか私一人でも村を平らにできそうなくらいなんだけど……

 まあ、そんな物騒なことしないけど。


「誰かいないか! いるなら出てきてくれ!」


 マーシャが呼びかけるけど民家らしき建物からは返事どころか音すらしない。

 不審に思い私たちは村の中心にある民家に近づいてみる。


「だ、誰もいないだと! どうなっているんだ!?」

「マーシャ、落ち着いて。 まだ全員がいなくなったとは限らないよ」

「だ、だが…… いくら何でも静かすぎないか?」


 確かに村の中心にある民家にいても物音がないなんておかしすぎる。 もしかして本当にこの村には誰もいないんじゃ……


「とりあえずもう暗くなってきてるし、この民家を借りて夜を過ごさない?」

「ああ、悔しいがそうしよう。 明かりもなしに夜の森にいるのは危険だからな」


 カタッ


「誰だ! いるなら返事をしろ!」


 部屋の床から扉が現れ中からおばあさんが出てきた。


「これはこれは領主様! 私はこの村の長のパオロと申します。 どうか我々のお願いを聞いていただけないでしょうか」

「構わん、言ってみろ」

「実は先ほど帝国軍がこの村に攻めて来たのです! 我々は結界によって先に気づいていたので魔法の力で隠しておいた地下に避難していたのです」


 パオロさんが言うにはこの村には先代の王様からある秘宝の守護を任されていたらしい。 おそらくさっきマーシャが言っていたのもそのことだろう。

 しかし避難に焦るばかり秘宝を回収されてしまったそうだ。


 でもなんで帝国が秘密裏にここに攻めに来るんだろう。 それほど力のある秘宝なのかな。


「くそ、我が国は平和主義だから争うことはできないな…… それに今の状況では何もできない……」


 マーシャは今や国を裏切った者として追われているんだもんね。 国の力を使うわけにもいかないしどうしようもないんだよね。


「ねえナミ、行くところもないし取り返すために帝国に行かない?」

「そうニャね、ただ足が限界ニャから明日まで待ってもらってもいいかニャ?」

「ああ、ごめんごめん。 じゃあ明日から帝国を目指すとしますか」


 マーシャを逃がすこともできるし秘宝を取り返すことができれば無実の証明になるかもしれない。


「本当ですか!? 助かります!」

「そうしたら僕も行こう!」


 そういえばマーシャは男の設定だったっけ。 忘れていたな。


「ならどうぞ泊っていってください! 固いベットしかありませんが野宿よりはましでしょう」

「ありがとうございます」




 ベットに案内され私たちはようやく一息付くことができた。

 

 これから一体どうなるんだろう。 そう思い明日からの長い旅のために眠りに着いたのだった。




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