60.
――とある部屋にあるベッド。その上にカイルが寝かされており、安らかな寝息を立てていた。ベッドの横には簡素な棚が一つだけあり、床も木張りでそれほど清潔感が無いことからここが病院ではないということが伺える。
開け放たれた窓からさぁっと風が入ってきてカーテンを揺らし、その風はカイルにも触れる。
「ん……んん……? 俺は……? 痛ぅ……」
カイルが目を覚まし、上半身を起こそうとしたが左足に激痛が走り脂汗を流しまたベッドへ倒れこむ。ちょうどその時、シュナイダーを抱えたイリスが入ってきて呻くカイルに駆け寄ってきた。
『お父さん、目が覚めたのですね!』
「きゅんきゅん!」
「ああああああ!? イリス、そこは傷がある!? シュナイダー、お前も乗るなぁぁぁ!」
『あ、ごめんなさい』
カイルはぽいっとシュナイダーをイリスに放り投げ、体を縮めて痛みに耐える。その激痛と同時に、気絶する前のことを思い出してきた。
「そうだ……イリス、もう大丈夫なのか?」
『……はい、あの時No.1に頭を殴られてメモリーがおかしくなりました。最終的に整合した結果、私の中にある”何か”が囁いてきました』
「”何か”……?」
カイルが訝しんで聞くと、イリスはゆっくり頷き話を続ける。その表情は暗く、シュナイダーが頬を擦り付けていた。
『はい……下等種を……地上の人間を抹殺しろ、と。私はお父さんやお姉さんの顔を思い出し、その言葉に抗いました。ですが、結果は……』
あの通りだ、とイリスは顔を伏せる。その様子を見て、カイルはずりずりとベッドを移動しイリスの頭にそっと手を乗せて言う。
「よっと……いてて……頑張ったなイリス」
『お父さん……? で、でも、私、お父さんの足を……』
「まあ、ちょっと痛いが急所は外れているし、回復術で傷も塞がっている。すぐ歩けるようになるさ。お前はそんな声が聞こえて不安だったろう」
『……うん』
「きゅふん」
イリスはカイルの胸に顔を埋め一言だけ呟いた。間にいたシュナイダーが挟まれて短く鳴いた後、カイルはイリスの背中を二度ポンポンと叩いた後、お願いをした。
「ここはどこなんだ? エリザかフルーレ、皇帝でもいい。誰か呼んできてくれないか?」
『はい! シュー、行こう』
「わん!」
イリスはカイルに頼まれたことが嬉しかったのか、人を探しに部屋を出る。カイルは苦笑しながらため息を吐くと、ひとりイリス出ていった扉を見ながら呟く。
「……とりあえず危機は去ったか? あのNo.1、ニックとか言うやつはどうなった……? それにイリスだ。あんなに感情を出す子じゃなかったはずなのに、表情がころころ変わっていた。どういうことだ? ”何か”とやらが関係しているのか? それに流したものの、『地上人』という言葉も――」
起きてから見た情報だけでもかなり収穫があったと顎に手を当ててぶつぶつと呟くカイル。だが、その独り言を止める人物が声をかけてきた。
「目が覚めたようだな、カイル」
「皇帝……あんたも無事だったか」
「はっはっは、お前に殺されるまでは死なんよ? お前もそのつもりなんだろう?」
「ふん」
自分を殺そうとしている相手に笑いかけるガイラルへ憮然とした表情を向けると、くっくと笑いながらベッドの横に近づいてくる。そんなガイラルを横目に見ながら口を開くカイル。
「……あいつはどうなった?」
「No.1……ニックのことか? ……あいつは消えたよ。お前の作ってくれた広範囲兵器で焼き尽くした。ウィルス持ちの遺体と一緒に跡形もなく」
「そうか」
多分そうだろうなと思っていたので、カイルはあっさりとした返事をして話を切った。そうなるとニックの生死由重要なことを聞かねばなるまいとカイルは口を開く。
「皇帝、俺に広範囲兵器を作らせたのはこれを予測していたからか? それに奴を知っている、いや奴もお前を知っている口ぶりだった。ここまで目の前であれこれやられたんだ、もう誤魔化しても無駄だぞ?」
「フッ、そうだな……」
僅かに寂しそうな表情を見せた後、ガイラルは話し始めた。
「誰も居ないのはちょうどいいか。……私が帝国の皇帝として世界を統一しようとしていることは知っているな? このことも含め、全てある一つの目的のために行っている」
「世界を統一してこの世界を支配したいんじゃないのか?」
カイルが肩を竦めて言うと、ガイラルはカイルの足を指で突いて話を続ける。
「いてぇぇぇぇ!?」
「ふっふ、私は世界の支配に興味などない。それに世界を統一しても政治経済がまとまらなくなりやすい。意外と世界征服は面倒なんだぞ?」
「知らねぇよ!?」
「まあそれはいい。私の目的の話の前に『遺跡』の話をしようか。カイル、お前はアレを誰が作ったかわかるか?」
そう聞かれて、カイルは真顔になりガイラルの目を見て言う。そこが知りたいのだ、と言わんばかりに、
「……それこそ知らねぇよ。でも、あんたは知っている。……違うか?」
「うむ。あの『遺跡』を作った者は、今から5000年以上前、この地上に存在した高文明を持っていた人類だ」
「……!?」
カイルは驚愕の表情でガイラルを見る。さらに口から出てくる言葉は驚くものだった。
「――当時の人間は今の文明よりかなり進んだ技術を持っていた。それこそ冷蔵庫や自動車、飛空船、重火器に広範囲兵器など生活用品から軍事技術、それは今よりも格段に良く、生活も楽になるものばかりだった」
「でも今はそうじゃない。『だった』ってことは文明が滅んだってことだろうな」
カイルが途中で挟むと、ガイラルは頷く。それはカイルのような技術者には予測できるものであった。
「平和な暮らしがありそうだが、技術が革新するのと同時に、それを民に落とし込めなければ格差が生まれる。格差が生まれれば当然争いが発生する。これはいつの時代も同じことだ。実際、今回のシュトレーン国や『遺跡』を手に入れようとしたウェスティリア国。この二国は裕福層と貧困層の格差がきっかけなのだ」
「……」
「そうして彼らはこの地上から消え去った。この地上を恐ろしい兵器を使って死の大地へ変えてな」
「じゃあ、俺達はその生き残りの子孫ってことか……?」
「うむ。そして滅んだ文明が使っていた『電気』から『魔力』に変わり、また再興を果たしてきた」
なるほど、と納得すると同時にカイルはひとつ、話してくれるはずのことを聞けていないと口を開いた。
「『遺跡』はその昔の人間が作ったってことでいいのか? イリスやあのニックってやつの武器は確かに凄かったが……」
「そうだな。今から話すところだったことだが……当時、裕福層と言われていた連中は全滅はしていなかった。それどころか、地上を焼き尽くしたのはその生き残り……連中は地上を捨てたのだ。だが、いつか自分たちが子孫がこの大地に戻って来れるよう、ひとつ計画を残した」
ガイラルは窓の方へ歩き、暖かい日差しが差し込む青い空を見上げながら、カイルに告げる。
「その計画の名は”#楽園__エデン__#”。地上の汚染物質が消えた後、地上へ戻ってくるその時『遺跡』に残した”終末の子”を使い、地上人類の完殺をするための悪魔の計画」
「な……!?」
そしてガイラルは腰の剣を抜いて空に向かって掲げて言う。
「私の真の敵は『古代人の生き残り』。今はこの空のどこかに居住地を作り、自分たちを『天上人』と呼ぶ、地上に住む全ての人間を脅かす存在だ」
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