40.
「はあ……はあ……くそ、魔獣の数が多い……! 町も」
クレイター達は二手に分かれ、進軍していた。駐屯地には二十名ほどが残っていたので、三分割してそれぞれの町に向かう。
ようやくたどり着いた町でみた光景は、クレイターが驚愕するに十分なものだった。
「そらぁ! ぶっ飛びな!」
「ハッ! それ! 怯むな! デカブツを狙え!」
「たぁぁぁぁぁ!」
中佐、少佐、大尉の階級章をつけた兵と共に、帝国兵が魔獣たちを殲滅していたのだ。その中でさらに目を疑う人物がいて声を上げる。
「皇帝陛下!?」
「む? おお、駐屯地を任されている……クレイター大佐だったかな? こちらに救援に来てくれたか。……カイル少尉は?」
「ハッ! 名前をおぼえていただけて光栄であります! カイル少尉は駐屯地で敵と交戦中。黒幕と思われる、過去に無くなった村の人間と言っておりました!」」
「……ふむ、ご苦労。では私もそちらへ向かおう、エリザ、ここを片付けたら他の町を頼むぞ」
「わかりました。父上はどこへ?」
「カイル少尉のところだ。あのでかい一つ目を倒しておくか」
「弱点はあの目です。ただ、銃では高さがあって難しいです。皮膚は弾力があり、ダメージは通りません」
クレイターが肩を落としながら説明すると、皇帝は剣を構え口を開く。
「なるほど。ならば顔をこちらに向けてもらえばいいだけだろう」
「は?」
皇帝はダッと走ると、サイクロプスに向かって剣を振りかざす。
「陛下、あぶねぇですよ!?」
「構うな、魔獣を掃討していろドグル少佐。起きろ、大剣サクリファイス。<****>」
「っ……! なんだ……ノイズ……?」
皇帝が口を動かした瞬間、エリザが不快感をあらわにし耳を押さえる。次の瞬間、皇帝の剣に霜が降り、サイクロプスの足に切りつけた。
ピキィン……
「オオオォォォォ!?」
「氷晶剣……固めてしまえば弾力は関係あるまい? ふん! ……後は任せるぞ」
ズパン! と、皇帝が剣を振りぬくとサイクロプスの足は真っ二つになりズゥゥゥン……と、横倒しになるサイクロプス。家屋はかなり破壊されたものの、ここはチャンスとばかりにオートスがスナイパーライフルで狙いをつける。
「ドグル、一発じゃ心もとない。続けて頼む。ダムネ、その後一撃をお見舞いしてくれるか?」
「あいよー」
「わかったよ!」
ターン! という心地よい音が響いたころには皇帝の姿はすでになく、サイクロプスの一体はダムネの突撃槍に”オクスタン”によって後頭部まで刺し貫かれていた。
「よし、魔獣を……む!?」
「おおおおおお!」
エリザが号令をかけようとしたところで魔獣と共に人がこちらに走ってくるのが見え、エリザは目を細める。彼女たちは知らないが、彼らは村人である。
「人……? いや様子がおかしい……! 全員、向かってくる人に気を付けろ」
「うあああああ!?」
そう言ったのも束の間、魔獣にもたついていた兵士の一人が村人に噛まれた。他にも数人が村人に噛まれ、膝をつく。
「足を狙って撃て!」
「へいへい! 抵抗するなよ!」
オートスの指示で一斉に村人へ発砲する。すでに死んでいるとは知らないので勢いを削ぐため足を狙う。その間、エリザは後方で衛生兵に声をかける。
「衛生兵! ……な!?」
「な、なんですかあれ……!?」
だが、次の瞬間噛まれた兵士に異変が生じ、エリザとダムネが驚きの声を上げた。蹲っていた兵士が突然奇声を上げて、衛生兵に襲い掛かったのだ。
「うぐぐぐぐ……うがあああ!」
「ひぁぁぁ!? あ、うぐ……!?」
「……まずい!? 噛まれた人間も同じになるのか!? いったん引け!」
エリザの号令で前に出ていた兵士を下げ壁を作る。すぐに目を細めて状況を判断するエリザ。
「(見たところ皮膚を直接噛まれなければああはならないようだな……)全員へ! 引き続き足を撃って止めろ。近づかれたら皮膚が見えているところを噛まれないようにすれば大丈夫だ、行くぞ……!」
「僕はフルプレートだから前へ行くよオートス」
「頼む。……味方を敵にする、胸糞悪いやつが相手のようだな」
「へっ、お前が言えたことかっての」
「フッ……違いない。口の利き方に気を付けろよドグル?」
「うるさいのは御免だね! うらああああああ!」
「(しかしこのままではじり貧だ。クレイター大佐の言う黒幕を倒せば何とかなるのか? とりあえず今はここを切り抜けるか)」
エリザはアサルトライフルを構えて胸中で呟く。一方、エスペヒスモと交戦しているカイルは――
タンタンタン!
ガイィン! キィン!
「チッ、爺さんやるじゃないか!」
「小僧にやられるほど老いぼれてはおらんわ! 魔獣の居る森の開拓を任された人間だぞ? これくらいのことはできる!」
意外……というほど意外ではないが、ショートソードを巧みに使ってカイルの銃弾を弾き、踏み込んでくる。速さで勝負するタイプではないが、鋭い振りが剣圧を起こす。
「小僧もいい得物を持っておる。殺すには惜しいが、死ねば私の仲間にしてやろう」
「できないことは口にするもんじゃないぜ!」
「うぬ!?」
ズザザザ……!
カイルの深紅の刃が一閃し、間一髪でエスペヒスモがそれを避ける。
「やりおる……。しかしそれでも私を倒すことはできないぞ?」
「……」
カイルは目を細めて無言で刃を構える。じりじりと間合いを詰める両者。睨み合いが続く中、先に動いたのはカイルだった。
『お父さん』
イリスの声に一瞬目を向けると、マーサの姿が目に入る。カイルは頷き、深紅の刃を振りかざしながら叫ぶ。
「策は……ある!」
「む!」
ブォン!
キィィィン……
カイルの渾身の一撃でエスペヒスモのショートソードが真っ二つに俺、懐が無防備になる。踏ん張ったエスペヒスモが両腕をクロスさせてから口を開いた。
「剣が……!? だが、私は――」
「お父さん……!」
「な!? マーサ、いつの間に……」
カイルがマーサに取りだした瓶を投げて渡すと、即座に蓋を開けてまき散らす。それは魔素を中和するあの液体だった。
「う、うおおおおお、こ、これは!?」
苦しむエスペヒスモをマーサが抱きしめて拘束する――
「い、今よ……」
「……すまん!」
シュウシュウと音を立てる二人の体が袈裟懸けに切り裂かれた!
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