願いを叶える記事と、友の願い⑧




放課後になり、冬弥は友亜を部活に誘った。 もちろん冬弥は部活に参加などできはしないため、付き添いのようなものだ。 あれから特別な変化は身体にない。 

身体の震えも収まったことから、おそらくは精神的なものだったのだろう。


―――相変わらず、景色は薄いけど。


普通に行動をすることに支障が出る程ではない。 ただ相変わらず、友亜の機嫌はよくなかった。


―――どうしたんだ、友亜の奴。

―――今までこんなことはなかったのに。


バッグを持ち一緒に廊下へ出る。 すると、友亜に話しかけてくる女子がいた。


「友亜くん! また明日もよろしくね!」

「あ、うん」


男子生徒からも声をかけられる。


「友亜ー、また明日ー!」

「また明日・・・」


客観的には人気者になったと言える。 普通はこれ程人が集まってきたりはしない。 だが友亜が、全く喜んでいないのだ。


―――・・・そんなに暗い顔をするなら、記事をもう書かなければいいのに。

―――そしたら俺も、もう少しここにいられるのかもしれない。

―――・・・はは、実際一人になって寂しくなるのは、友亜じゃなくて俺だったのかもな。


ひと段落がつき二人は部活へと向かう。 冬弥は入学式当日に死んでしまったため、当然部活なんかに入れるはずがない。

だが友亜は冬弥が生きていると思っていることから、新聞部に入部したということにしていた。


―――誰も俺のこと、見えないけど。


部活へ行ったら友亜と話す機会がなくなってしまう。 つまり二人で話すのは、今が最後となるだろう。 友亜が書いた記事はどのくらいの時間で叶うかが分からない。 

おそらくはもう500個分書いているだろうから、冬弥が消えるのも時間の問題だった。


「・・・友亜、元気?」

「・・・うん」

「今の気持ちは、どう?」

「記事を書きたくなくなってからのこと?」

「そう」

「・・・みんなの笑顔が見られなくなるから、僕は書き続けるってさっきは言った。 だけどもう一つ思うことがある」

「それは何?」


冬弥は友亜が何を言うのか、何となく分かっていた。


「もし僕が、書くのを止めたらどうなるのかなって考えたんだ。 ・・・そしたらみんなは、もう僕には興味がなくなっちゃうのかな」


普通なら誰もが思うことだ。 冬弥もこのままの関係が続くとは思わない。 だからと言って、真正面からそれを肯定することもできない。


「そんなことはないよ。 記事を書くのも書かないのも、強制ではない。 友亜の自由なんだ」

「じゃあもしも、僕が書くのを止めなかったとするよ。 だけど突然、記事が実現するっていう能力が消えてしまったら?」

「・・・」


友亜の不安は、おそらく今日現実になる。 そして、その後どうなるかは冬弥は知ることができない。


「・・・みんな、怒らない?」

「怒るわけがないだろ。 みんながみんな、友亜のその能力を利用しているわけではないんだから」

「でも怒る人、絶対に複数はいるでしょ?」

「それは、分からないけど・・・。 でも俺は、ずっと友亜の味方でいるよ」

「・・・冬弥なら、そう言ってくれると思ってた。 だから僕ね、もう冬弥だけがいればいいかなっていうのも考えたんだ。 そしたら僕が書くのを止めようが能力が消えようが、もう関係がないから」


『なら記事を書かなければいい』 『そうしたらもう少し、一緒にいられるのかもしれない』 そのような言葉が出かかったが、グッと堪えた。 先延ばしにしたとしても意味がない。 

ただ今の状態で自分が消えて、友亜が以前みたいに戻ってしまわないか不安でもあった。


「それは俺は反対だ。 友亜には、たくさんの人と話していてほしいから」

「冬弥は、僕と一緒にいるのが嫌なの?」

「そんなことは言ってないだろ。 友亜が他の友達を作る、これが俺の一つの願いでもあるんだから。 それに既にできた友達は絶対に消えない。 

 友亜が記事を書くのを止めようが能力が消えようが、一度できた友達は離れていかない」

「その保証はどこにあるの?」

「俺が保証する」

「・・・」


本当は保証なんてできるわけないが、そう言うしかなかった。 それで離れていってしまう人間は、元々友達ではないのだ。 言いたいことは全て言い切った。


―――もし俺なら、友亜から離れていかない。

―――友達として残ってくれる人も必ずいるはずだ。


だがその後も、友亜の顔は浮かないままだった。 部室へ着くと、友亜には早速とばかりに人が集まってくる。 願いを叶える力が知れ渡り、新聞部には部員が例年より多く集まっていた。

ただ部活中に、願いを求めることは禁止。 それは新聞部として活動するにあたって、当然とも言える決まりだ。


―――何とも言えないけど、楽しく話せる相手がいるだけで十分なのかな。


新聞部だからといって願いの優先権があるわけではない。 それでも人が集まったのは、おそらくは“自分もその力を使えるようにならないか”という期待が大きいだろう。 当然それは不可能だ。 

あくまで冬弥と友亜の間での契約みたいなもので、他人に譲渡はできない。


―――一度不安を抱いてしまえば、それを解消するのは難しいか。


友亜の顔は部活中も暗かった。 一度思い込んだら、頑固なのは昔からの性格だ。


―――・・・これでお別れっていうのも、何かな・・・。

―――綺麗な別れ方ではないし、モヤモヤする。

―――せめて、友亜が最後にでも笑ってくれれば・・・。


友亜が部員と話している間、冬弥はこっそり友亜のバッグを手に取った。 その中から願いが書かれた紙を取り出す。 あとは自分のペンを持ち、こっそりと部室から抜け出した。

友亜は部員に囲まれていたためか、冬弥がいなくなったことに気付いていなかった。



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