第49話 日下部くんの妹?

 

 日下部君だ! ああ、日下部君がイケフクロウの前にいる……。


 嬉しそうに待っている? そわそわキョロキョロしている日下部君……。


 ごめんなさい……既読スルーはしないって言ったのに……でも……未読スルーとは言ってないから……。


 なんて下らない言い訳を考えていると……私の隣に何やら怪しい人が……。


 この暑い中なんでスーツ? しかも黒って? サングラスをかけた喪服の様な格好の男の子? が私の横にいて気になって仕方がない。


 何かの映画で見たような……しかもなんだか危ない物を隠し持っているかのようにやたらと胸の辺りを触って確認をしている。


 いや、今はそれどころじゃない……そろそろお姉ちゃんが来る。


 私は日下部君の方に集中して監視していると、来た!


 お姉ちゃんだ……金髪姿のお姉ちゃん……なんか昔を思い出す。


 お姉ちゃんは昔金髪だった。

 顔の痣が目立たない様に髪の毛に注目させるって言ってた。


 綾になってからは控えているので、変装としてはさすがといった所か?


「ええええええええええ!」


 そう思いながらみていると、お姉ちゃんが日下部君に話しかけた途端、隣の黒服が突然大きな声をあげる。


 な、何? なんなのよ? 怖いよこの人……。

 しかも私が見ているのに気付いた黒服は私に会釈をしてきた……私は無視するのが怖くて、仕方なく軽く頭を下げ直ぐに目線を反らして下を向く。


 ただでさえ人混みで怖いのに、さらに怪しい人が隣に……ああ、もう帰りたい……ガクガクと膝が震える。

 でも見ないと……見届けないと……バレない様に見れるのはここだけ……私は気力を振り絞って、その場に居続けた。


 暫く二人は楽しそうにお喋りをしていた。日下部君の笑顔見る度に胸がズキズキと痛む。

 そして、ひとしきり話すと、お姉ちゃんが人差し指を一本立てて、上を差した。

 ああ、多分お姉ちゃんは日下部君を買い物に誘ったんだ……と一目でわかった。


「いいなあ……」日下部君に服を選んで貰えたら……私ならなんだって着る。水着だって……いいなあ……お姉ちゃんが羨ましい……とその時、さらに恨め、いや、羨ましい事をお姉ちゃんが日下部君に!


「ひう!」

 お姉ちゃんが日下部君の腕に自分の腕を絡めた。それを見て私は思わず声をあげてしまった。隣の黒服が再び怪訝な顔で私を見る。


 ああ、もう……なんなのよ? っていうかまさかこの人……探偵か何か?

 いやいや、こんな怪しい探偵なんていない……お父さんの本では普通の格好だって書いてあった。


 じゃあ一体? ってそんな場合じゃない……日下部君とお姉ちゃんが行ってしまう。

 私は見失うと思い、慌ててその場を飛び出した。


 その時、さっきから隣の黒服が怖くて、周囲が怖くて、膝がガクガクしていた為に、私はよろけてしまう。

 そして何故か私と同時に動いた黒服と、ぶつかってしまい……私はその場で尻餅をついてしまう。

「いっったああ……」

 お尻に激痛が、でもそんな事よりも転んでしまった事で周囲に見られる、注目されると思い、私は急いで立ち上がろうとすると……えええええええええ!


 黒服が、いきなり私のスカートの中に……手を!

「──ひ、ひいいいいいいいい!」

 私は思わず声をあげる。だ、だって白昼堂々とこんな大胆な痴漢なんて……。

 でもそれによって……周りが私に、私と黒服に注目する。


 ひ、ひいいいいいいい!

 痴漢と周囲の注目……ダブルで攻撃され私はパニックに陥った。

 た、助けて、日下部くーーん……声にならない悲鳴をあげるが、それがかえってさらに注目される事に。


 ごそごそと何かを探す様に黒服は私のスカートの中に手をいれた。

 周りの人が痴漢んと騒がしくなると、黒服は、痴漢行為をやめる事なくサングラスを外し、結んでいた髪をおろして自分が女だとアピールする。


 それを見て、黒服が女性だった事で、私は少しホッとするも、この妙な状況は変わらない……そしてその黒服女は私のスカートの中から黒い物を取り出した。

 ひ、ひうううううう!


 い、今のって、ひょっとして……ピストル? ええええ!

 何? この状況? 今この人ピストルをジャケットに中に入れた!


「あ、あった、こんな所にわたしの財布がああああ!」

 そして周囲を欺く為か? 唐突に財布を取り出しそう言ってアピールする。

 っていうか……何? その棒読み、何その演技? 嘘よ、白々しい!


 で、でも言えない、周囲はそうだったのかと納得して解散していく。


 だ、駄目待って、殺される!

 こういうのって、見たら殺されるって展開に!


「ひ、ひうううううう」

 その黒服女は私に何か話しかけてくる……でも、怖くて……何を言っているのかわからない……。

 ああ、ここで殺されるんだったら……日下部君に告白しておけば……。

 日下部君との短い思い出が走馬灯の様に頭を駆け巡る。


 私はもう駄目だと撃たれると諦めかけたその時、その黒服女が突然自分の名前を言い出した。


「私は日下部 楓、日下部 涼の妹よ!」


 日下部? まさか……でも、ああ、だから日下部君を見ていたのか?

 っていうか! く、日下部君の、身内?!


「わ、わわ……私 日下部君と、同じクラスの、その……友達の、綾波明日菜って言います……です!」

 私は日下部君の身内と聞いて、思わず慌てて自己紹介をしてしまった。


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