第23話 遭遇
夏休みが始まり数日が過ぎた。だけど綾波を誘う勇気はまだ湧かなない。
朝の挨拶と夜のお休みなさい、その前後に今日読んだ本の事等を『らいん』である程度やり取りするので限界だった……でも、毎日こうやってメッセージを送ったりするのは凄く楽しく俺は綾波と、どんどん仲良くなっている気がしていた。
そして、夏休みといったらやはり……あやぽんだ。
学校でいけない日も夏休みならば、問題なく行ける。
今日俺は、久しぶりにあやぽんに会いに来ていた。
今日は海でのイベントで、なんとあやぽんは水着を着るらしい、と聞いたら、何を置いてもいかざるを得ない。
俺は朝から電車を乗り継ぎ、某海岸のイベント会場に来ていた。
会場には既に人だかり、俺はいつもの様に後方からあやぽんを見つめる。
「おおお! あやぽんの水着……だ」
ヤバい……衝撃過ぎる。初めて見るあやぽんの水着姿に俺は涙する。
写真撮影は禁止との事なので、必死にこの目に焼き付けようと、俺はまばたきするのも惜しむくらい、あやぽんを見続けた。
いつもの様にはにかむ様な笑顔を会場中に振りまくあやぽん……俺はこの為に生きていると実感した。
あやぽんの出番が終わると、もう他には用はないと、俺は会場を後にする。
でも、折角の海、このまま帰るにはちょっと惜しい……俺は念の為にと持ってきた水着に着替えた。
そして海で泳ごうとするも、会場近くには人が多く、海でカップルを見ると、思わず爆発しろ! と思ってしまうので、海岸の端、岩場の近くまで歩いていく。
「いったああああ」
すると岩場の方から女性の大きな声が聞こえた。
俺はその声の方に行ってみると……そこには……足を押さえた水着姿の女子がいた。
「痛あぁ……なんか刺さった」
そう言いながら岩場に座って足の裏を見ていた。
「大丈夫ですか?」
俺はそう声をかけると、その女子は顔を上げて俺を見た。
「ああああああああ!」
その顔を見た瞬間、俺はあまりの衝撃に声を上げる。
「え? な、何?」
「あ、あ、あやぽん!」
そう、そこには、さっき会場にいたあやぽんが、そのままの水着姿で岩の上に座っていた。
「あ……あああ、あんた何でここに?!」
大きな声を出し、指を差し、驚きの表情で俺を見るあやぽん……なんだ? 何で驚く? あ、俺がいつも会場に来てるからか?
「何でって、俺は、あやぽん……綾さんのファンなんです! 今日もまたイベントに来ました!」
「……私のファン?」
「はい! あれ? 俺に見覚えがあったんじゃ? いつもなるべく後ろの方から見てるんですけど、覚えてくれてた……のでは?」
「あ、ああ、そう、ね、うんそうよ、ちょくちょく見かけてたから……私のファンだったんだって……そ、そうだ、ちょうどいい、ちょっと見て貰えない、足になんか刺さってるみたい」
あやぽんは、そう言って何かを誤魔化すかの様に唐突に俺に足の裏を見ろと言ってくる。
水着姿で真っ正面に座りあられもない姿で俺に足を突き出すあやぽんに俺は思わず鼻血を出して倒れそうになった。
でも、今はあやぽんが困っている。痛がっている……助けねばと俺は思い直し、あやぽんの足をじっくりと見ると……。
「トゲが刺さってますね、動かないでください」
そう言って俺は慎重にあやぽんの綺麗な足の裏に刺さっていたトゲを抜いた。
「……取れた?」
「ああ、はい、大丈夫だと思いますけど、念のため消毒と絆創膏を貼って起きましょう」
俺はそう言って持っていたバックから消毒液と絆創膏を取り出した。
「へーー随分用意が良いのねえ?」
「ああ、そうなんですよ、子供の頃、幼なじみ怪我をした時何も出来なくて、それ以来出かける時は常備してるんです」
「へーーーー」
「少し、しみるかも」
「大丈夫よ……」
あやぽんは、いつもとは、会場とは違う笑みを浮かべて俺の治療を見つめていた……。
◈◈◈
「えええ! 同じ年?」
「そうよ、高校1年……」
「えええ! み、見えない……」
まさか同じ年だったとは、あやぽんのプロフィール謎だらけなので俺は年齢を聞いて驚いた。
だって凄くいいプロポーションで……、
「どこ見てるの? エッチ!」
「あああ、すみません!」
「ふふふ」
あやぽんは俺の隣に座り海を見ながら笑った。
そう……俺は今なんと、怪我を治療した後岩場に座ってあやぽんと一緒に海を見ながら話をしていた。
いつもは仕事が終わったら直ぐに帰るそうなんだが、夏休みで折角海に来ているのだから、せめて人気の無い所で海に入ろうと岩場に来た所怪我をしてしまったとの事だった。
「俺、実は色々あって、でもあやぽん……綾さんに助けられたんです……綾さんの笑顔に救われているそれ以来ずっと応援してました。って言ってもまだ1年も経って無いんですけどね」
「……そか……ありがと」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
「……同じ年なんだからためでいいよ」
「……あ、はい……でも……恐れ多くて」
「別に、こう見たら普通でしょ? もっと美人の人は一杯いるしね」
「そ、そんな事無いです! あやぽんが一番……」
「あはははは、顔真っ赤で、可愛いねえ」
「そ、そんな……」
「そんな大層な事じゃないよ、私なんてね……この仕事だって、今はお金の為にしているんだし……」
そう言うとあやぽんは少し悲しそうな顔をして笑った。その笑顔は、その少し悲しそうな笑顔は……いつもの、仕事をしている時の、あやぽんの笑顔だった。
「そんな事無いです、仕事をしてお金を稼ぐのは当たり前だって、俺はそう思います」
「……うん……だよね、うん、ファンの君からそう言って貰えてホッとした……ありがとう」
「あ、はい、ずっと応援してます、これからも!」
「ありがと、じゃあ……そろそろ行くね」
「あ、はい! 話が出来て幸せでした!」
「……そんな大袈裟な、ああ、そういえば名前聞いて無かったね?」
「あ、俺、日下部って言います、日下部涼です!」
「日下部……君ね……覚えておく……ね」
「あ、ありがとうございます!」
あやぽんはそう言って少し足を気にしながら、歩いてその場を後にした。
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