第20話 俺の気持ち綾波の気持ち


 夏休みが目前に迫ったある日、いつもの様に昼休み、周囲に人がいない事を確認して、俺は綾波に切り出した。


「綾波……【らいん】か、なんかやってる?」


「え? あ、うん……殆んど使ってないけどスマホには入ってる……よ」


「そか……えっとさ……俺も殆んど使った事無いんだけど……」


「……」


「……」

 沈黙が続く、言ってもいいのだろうか? いや、言わなきゃ駄目だ。

 俺は勇気を出して綾波に向かって言った。


「「やろっか?」」

 二人同時にそう言った。


「あははは」

「ふふふ……」


「ああ、勿論既読スルーとか気にしなくて良いから」


「いきなりそこ?」

 そう言って綾波は笑った。相変わらず眼鏡越しだけど、でも最近顔を上げてくれるので表情は以前よりもずっと分かりやすくなった。


「中学の時はスマホ禁止だったから、俺、結構成績悪くてさ~~」

 雪乃と同じ学校に行きたいって、そう思ってから俺は変わった。

 3年の夏から急激に成績が伸びて、それを親は認めてくれて、スマホやPCなんかも買ってくれる様になった。


 そして……夏休みになったら綾波に会えなくなる。それは嫌だってそう思い、俺は一大決心した。


 人生で初めて女の子に連絡先を聞いた。


 いや、じゃあ男友達には聞いたか事があるのか? と言われたら、聞いた事は無い。

 中3の時の友達に聞く事も出来たけど、あれってその……グループとかあってそこにいきなり入るのには抵抗があったりして……それだけ、別に友達がいないとかじゃ無いんだからね!


「えっと、登録って……」


「ああ、えっとね……これで出来るよ」

 綾波はスマホの画面を俺に見せて、手早く登録を済ます。俺も綾波のやり方を見てもたもたと登録を終えると、綾波は見事な手捌き、素早いスピードで文字を打ち込み送信してきた。


『宜しくお願いします、既読スルーは、なるべくしない様に心がけます(ФωФ)』

 一瞬でこの文字を打ち込む綾波を見て俺は意外に感じた。


「……こう言うの得意なんだ?」


「え? ああ、うん、ちょっと色々と、ね」

 何か歯に物が挟まった様な言い方で綾波はそう言った。

 今時の女子高生ならさして気にもならなかったけど、相手は綾波……俺はなんとなく違和感を感じていた。 かといって、しつこく聞くわけにも行かず、とりあえずは気にしない様にした……。


 そして俺も『よろー(ヾ(´・ω・`)』となんとか絵文字入りの返信をし、少しの沈黙の後に……本当の、本来の目的を聞く。


「えっと……あのさ、夏休みって予定とかある?」


「え? ああ、うん……えっとね……本を、本を集中して読もうかなって」


「ああ、だよね、俺も……」


「で、でも……」


「…………あ、えっと……会えたり……する?」


「……うん」

 真っ赤な顔で、うつ向いたまま綾波は、小さく頷いた。


 俺はわくわくしていた。綾波と会える事に、綾波ともっと親しくなれる事に。


 夏が始まる。高校での初の夏が……熱い夏が、始まる。

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