空しい想い
葉も枯れゆき、冷たい風が遠慮がちに吹く晩秋に、先が冷たくなった自分の手を温めようとさすりながら、背を縮めて歩いた。私は自分の手の冷たさを感じ、再び彼の厚い手を思い出した。彼の手は、このような冷たい風が吹く日にでも温かいのだろうか。温かくて皮の硬い彼の手が私の裸になった背中をなぜる。彼との情事を 空想した。彼と熱い想いをぶつけ合う空想だった。
私はこれまで幾度となく、彼との情事を空想し、焦がれる思いを丁寧に何重にも包んで、胸の奥にしまってきた。私の胸の奥には、彼との様々な情事についての妄想が、折り重なって積もっている。私は飽きることなく、空想した。特に、何か嫌なことがあった時や、ふと過去の出来事に対する辛い思いがよみがえってきた時には、彼との激しく痛々しいほどの情事を空想し、心の痛みをごまかしてきた。
そうやって、いかほどの時間を私は使ってきたのだろう。ただ空想し、胸の奥に架空の思い出が積もり重なるだけの行為をしている間、私は一体どれほどの有益な物事を達成できただろうか。そのような疑問を持った。そして、この空想を現実化することがない限り、終わりはないと気づいた。そして、彼との情事を現実化させた先に、いったい何があるのだろうかとも考えた。
そこには何もない、そう気づいた。その情事が終わってしまえば、また今の私と同じように情事を求めるだけだ。またその時には、すでに今の暮らしも壊れているだろう。
しかし、その情愛の先にあるものを見たくて仕方がないのである。
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