第1章 創高野球部へようこそ
氷川 新①
桜の花びら、たんぽぽの綿毛が交互に舞い落ちる季節。
俺は一個上の兄と同じ制服を着れる年になった。
俺は今、田村町にある高校に入学するため、福島県の中枢を担う郡山駅にいる。ここでは中学の頃、野球部関連でいつも足を踏み入れていた。
だが高校生なりたてとなると景色が180度違う。今季は出会いの季節。どこもかしらも見慣れた面々の中に、新しい顔ぶれも増えている。
俺と同じ新天地に来たのか、やはり緊張してる様子が多く見られた。不安になるな。大丈夫。俺はお前ら以上に心臓のバクバクが止まらない。同じ気持ちだ。
「こっちだよ。新」
広場の中心に向かうと、入学先の高校の二年生である兄が、ベンチの片隅で待ってくれていた。生まれた時から聞き慣れた声なので、かけられたらすぐに気づいた。
「遅れてすまん始。いや、上下関係的に呼び捨てはまずいか…?」
「いいよこのままで。15年も名前で呼び合う仲だからその方が落ち着く」
「じゃあ、今後も変わらず呼ばしていただきやす!」
キャリーケース持とうかと兄は、俺の負担を減らそうとしてくれるが、鍛えたいから大丈夫と断り、一緒に新白河駅方面の電車に乗った。
車内は、中学から持っている野球道具でぎゅうぎゅうに詰まっているバッグ以上にたくさんの高校生で混雑していた。
それも当然、すぐに降りる安積永盛駅の周辺には、高校が3校も近くに存在している。入試受ける前に調べた時は本当にびっくりしたね。えっ大丈夫なのそれ?ってね
一応もう一度確認してみようと俺は右ポケットからスマホを取り出す。
有能検索エンジン『Wonder』先生によれば、昭和時代から既にある帝京安積高校、日本大学東北高校に続き、俺がこれから入学するのは創造学院高校(通称『創高』)。
まだ歴史も浅く知名度は低いものの、創立初年度で数十名の難関国立大の合格者を輩出。更に陸上部や演劇部が全国大会への実績を挙げており、じわじわと有名になりつつある進学校だ。
「情報収集はバッチリじゃん」
「けどよ始。勉強大変なのに、よく野球部作ろうとしたな」
「入学当初は、もう一度野球やろうだなんて思わなかったよ。去年勉強に集中しようとした時に、選手としての僕を知ってる校長先生から『君のような逸材はここで終わらすべきじゃない!』って野球部新設に誘われたのがきっかけなんだ」
「やけに熱の入ってるな先生。野球できる環境作ってくれるとか太っ腹すぎんだろ」
こんな感じで二人で数ヶ月ぶりの雑談繰り広げた。そして電車内のアナウンスが流れてきた。そろそろ安積永盛駅に近づいてきたようだ。ざっと20分と言ったところだろうが、すぐに会話が楽しかったので退屈さとかは感じなかった。
人ごみに埋もれつつも、なんとか改札口を抜けた俺たち。ここからは歩きで創高に向かって行く。さあてあと少しで俺の高校生活が始まるぞ!
ブレザーの胸部分を掴み、身嗜みと気持ちを整えた。すると、兄が俺の一歩を止め出した。
「そうだ新。大事なこと一つ」
「えっなに? 忘れ物?」
「ネクタイが裏になってるよ。興奮してて気づかなかったでしょ」
瞬間、兄の口角がクイッと上がったのが見えた。
「もしかして、俺を試してた? ずっとこのまんまだった?」
「うん。言おうと、面白そうだから試してみた」
「…」
やっぱり観察眼のプロは侮れない。にしても変な遊び心を持ちやがってい。
嗚呼、穴が会ったら入りたい。
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